白球つれづれ~第26回・監督の責任とは?~
まだ、猛暑の残る8月だというのに、プロ野球では2人の監督の退任が早々と決まった。1人はロッテの伊東勤。2013年からロッテの監督に就任、過去4年では3度のAクラスにチームを導き、今年こそと勝負を賭けた年だった。しかし、オープン戦の快進撃とは裏腹に、シーズンに入ると打てない、守れない、の惨状であっという間に泥沼の最下位ロードにはまってしまった。
誤算と準備不足
さらに、チームの屋台骨を揺るがしたのは主砲であるA・デスパイネの流出だ。よりによって、同一リーグのソフトバンクとのマネーゲームに敗れて四番打者がいなくなった。余談になるが、昨年秋には西武の大砲、E・メヒアにもソフトバンクから勧誘の噂が流れて、急遽年俸5億の3年契約を結んだと言われる。ロッテには、それだけの覚悟と資金力がなかったということだ。
加えて、新外国人として迎えたM・ダフィーとJ・パラデスが全く結果を残せず、こちらもファーム落ち。指揮官は球団に早急な代替えの助っ人獲得を要望するが待望の長距離砲であるW・M・ペーニャがやってきたのは自力Ⅴも消滅した夏以降のことだった。こうした過程の中で「本気で優勝する気があるのだろうか?」と伊東は球団と現場との温度差に絶望的な気持ちになっていったとされる。
今年の球宴時には星野仙一、平松政次と共に野球殿堂入りの顕彰が行われた。西武黄金期の正捕手として、さらに同球団の監督に就任した04年にはいきなり、日本一の座も獲得した。栄光の輝きが眩しいだけに、今年の挫折が惜しまれる。
今年もヤ戦病院に…問題は…
もうひとり、退任が決まったのはヤクルトの真中満。こちらも3年前のリーグ優勝監督だ。
今月21日、球団社長兼オーナー代行である衣笠剛と会談の席上、辞意を伝え、慰留されるも「来年預かったところで、勝つ自信がない」と語ったという。こちらも伊東と同じくチームは断トツの最下位。かつての栄光と自信は無残なほどに砕け散った。
毎度、指摘される「ヤ戦病院」。今年は早々とエースの小川泰弘や主砲のW・バレンティンらが一時、戦列を離脱。三年前の優勝の立役者だった川端慎吾や畠山和洋は未だに一軍にいない。先発ローテーションも満足な打線も組めない現状を監督だけの責任に、果たして出来るのだろうか?
この両チームを見たとき、あまりにフロントが脆弱と言わざるを得ない。ロッテは近年、親会社の「政変」が続いている。創業家である重光一家の骨肉の争いは裁判沙汰にまで発展し、正直なところ野球どころではないのが実情である。一部では球団の身売り説まで流れている。ヤクルトは昔からアットホームな球団体質に「ぬるま湯」の批判がある。このままでは血をいとわぬ改革は難しい。
ロッテとヤクルトの選ぶ道は…!?
12球団に目を転じたとき、強いチームには大きな特徴がある。豊富な資金力をバックになりふり構わぬ補強を続けるチームと、計画立てて育成の出来る球団だ。前者の代表格がソフトバンクや巨人なら、後者には広島や日本ハムが当てはまる。
その中間に位置するのが阪神、DeNA、楽天など。阪神は金本知憲の監督誕生から若手の育成に舵を切っている。DeNAは高田繁、楽天は星野仙一がGMや球団副会長としてチーム改革の先頭に立っている。ソフトバンクや巨人でも金満補強だけでなく、育成選手の活躍も目立ってきた。悲しいかな、ロッテやヤクルトに他球団を上回るこうした経営努力があるとは言い難い。
ロッテは今季限りで現役を引退する井口資仁、ヤクルトは二軍監督である高津臣吾が後任監督として有力視されている。だが、指揮官の首を挿げ替えても根本的な改革にはならない。
ライバル球団に比べて何が足りないのか?どうしてチームを立て直していくのか?フロントに真のスペシャリストを置かない限り弱小チームの浮上はない。上位がペナント争いの真っただ中。蚊帳の外と嘆く暇はない。それが無念の思いでユニフォームを脱いでいく伊東勤、真中満に報いる道だろう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)