1戦目、3戦目で殊勲打を放つ勝負強さ
広島・安部友裕の一打がまたも試合を決めた。9月7日の阪神戦、2点を追う5回に広島打線が逆襲を開始。丸佳浩の右前適時打、松山竜平の犠飛で同点とし、2死二塁の場面で安部に打席が巡ってきた。
1ボール2ストライクと追い込まれながら、相手先発・秋山拓巳の落ち切らないフォークをうまくすくい上げた。左中間へと伸びた打球は、果敢に飛び込んだ中堅・中谷将大のグラブのわずか先をかすめてフェンスに到達。これが、逆転の決勝三塁打となった。
昨年8月7日、新井貴浩の一打でサヨナラ勝利を収めた巨人との一戦を思い起こさせる逆転勝利。その試合がそうであったように、この対阪神3連戦は間違いなくペナントの行方を左右する天王山であった。
奇跡の逆転Vを信じて3戦必勝で臨んだ阪神を全て逆転で返り討ちにした広島。2年連続のリーグ制覇を大きく手繰り寄せた。1戦目のサヨナラ2ランに続く大仕事をやってのけた安部は、間違いなくこの3連戦の主役だ。
首位打者のタイトルも射程圏内に
28歳の安部は、プロ入り時に中田翔(日本ハム)、唐川侑己(ロッテ)、由規(ヤクルト)の高卒“ビッグスリー”が話題となったいわゆる“89年組”。チームメートの丸、菊池涼介、田中広輔、野村祐輔をはじめ、菅野智之(巨人)、田島慎二(中日)、中村晃(ソフトバンク)、鈴木大地(ロッテ)ら、各球団の主力が名を連ねる。
彼らに比べれば、安部はかなりの遅咲きだ。ファンの間でも「“二軍の帝王”のまま芽が出ないのではないか」と心配されていたが、常に上昇志向を胸に秘めてひたすらに一軍定着、そして一軍レギュラーの座を追い求めた。2014年、二軍で2度目の盗塁王を獲得した際に残した「まだ二軍にいるということなので悔しい気持ちが大きい」というコメントにも一軍で活躍したいという強い気持ちが表れている。
長年の努力、諦めない気持ちが結実し、今季はついにレギュラーの座をつかむことになった。選手層の厚さというとソフトバンクの名が即座に挙げられるが、広島も負けてはいない。
昨季、主に三塁を務めたルナが退団すれば、今季は安部が急成長。同じポジションでは2年目の西川龍馬も着々と成長している。昨季のブレイクを経て今季は4番を務めていた鈴木誠也が離脱しても、松山がきっちりその穴を埋め、クリーンアップを任された安部がこの活躍だ。金本知憲監督(阪神)の「去年より戦えている」という試合後の悔しさが滲み出た発言が、皮肉にも歴然とした力の差を感じていることをうかがわせる。
安部の成長はしっかり数字にも表れている。現在(2017年9月8日終了時点)の打率.316は、宮﨑敏郎(DeNA/.315)を抜き、マギー(巨人/.318)に次ぐリーグ2位。首位打者のタイトルも射程圏内だ。安部が首位打者になれば、広島の選手としては2004年の嶋重宣以来の快挙となる。課題があるとすれば、打率.237と苦手にしている対左投手の打撃か。
ともあれ、レギュラーに定着してのリーグ制覇、そして初タイトル獲得へとモチベーションは高まる一方だろう。“遅咲きのドラ1”、安部の成長から今後も目が離せない。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)