勝負どころの終盤戦で昇格
64勝61敗、ついに巨人が3位DeNAとゲーム差0まで迫ってきた。
後半戦は菅野智之、マイコラス、田口麗斗という球界屈指の三本柱を中心に盛り返し、7月29日に「1番陽岱鋼、2番マギー、3番坂本勇人」で打線固定してから35試合で22勝13敗だ。夏が終わり、徐々に主力ベテラン野手陣に疲れが見え始めた中、打線の起爆剤を期待されるのが21歳の岡本和真である。
3年目の今季は初の開幕1軍入り、「7番レフト」で開幕戦スタメンに抜擢されるも結果を残せず4月21日には2軍落ち。イースタンの成績は85試合、打率.267、7本塁打、41打点、OPS.753。シーズン途中の配置転換で内田順三2軍監督になってからは主に「4番レフト」として起用され、9月8日に4カ月半振りの1軍昇格を果たした。しかし、昇格後は4打数無安打2三振。ここまでの1軍打撃成績は打率.192、0本塁打、2打点と寂しい数字が並んでいる。
もちろん岡本は継続的にスタメン起用して場数を踏ませたい選手のひとりだが、チームはセ・リーグにCS制ができてから10年連続で出場中。今季もDeNAと熾烈な3位争いを繰り広げている。終盤まで常に優勝争いやCS争いをしているから自動的に「消化試合で期待の若手野手を1軍で試す」機会は極端に少なくなる。仮に原巨人全盛期のように独走優勝ならば、9月中旬にはプロスペクトを試すケースも多く見られたが、今のシビアな状況で由伸監督に外野守備に大きな不安がある岡本を使えというのも酷だろう。
思い起こされる24年前と近年の傾向
その一方で24年前のシーズンのことを思い出す。93年、あの松井秀喜のルーキーイヤーの出来事である。8月中旬に19歳の松井が1軍再昇格した時、チームは3位。首位ヤクルトを追いかけ、中日や広島と激しいAクラス争いを繰り広げていた。長嶋監督はそういう状況で背番号55にこだわり、将来の4番バッターを育てようと打率1割前後、1本塁打の高卒ルーキーをスタメンで使い続けたわけだ。
最終的にプロの水に慣れた松井はセ・リーグ高卒新人最多の11本塁打を記録し、この終盤の抜擢が翌年からのクリーンナップ定着の足掛かりとなる。最後まで3位を争うCS制度がある現在では難しい起用法だが、どれだけ批難されようが長嶋監督はチームの未来を松井の才能に託した。のちに原監督が19歳の坂本勇人の才能に懸けたようにだ。
高校通算73本塁打のドラ1スラッガーも早いものでプロ3年目。近年の球界を代表する高卒野手たちの3年目の成績を見ても、中田翔は65試合(230打席)で9本塁打、筒香嘉智は108試合(446打席)で10本、山田哲人は94試合(396打席)で3本、鈴木誠也は97試合(238打席)で5本とそれぞれ一定の出場機会を与えられ、のちの飛躍のきっかけにしている。岡本の場合は3年間で1軍出場計34試合、71打席しか経験できていない。昨季、74打点でイースタンのタイトルを獲得したことを考えても、あまりに少ないチャンスの数だ。
勝負の17試合
この岡本と同じように守備に不安を抱えた遅咲きスラッガーのモデルケースとしては、中日や楽天で活躍した山崎武司の名前が挙がる。高校通算56本塁打を放ち、大型捕手として86年ドラフト2位で中日入り。球団から将来の大砲を期待された山崎は、3年目と4年目には2年連続でウエスタンリーグ本塁打王&打点王を獲得。しかし、課題の守備で捕手失格の烙印を押され外野と一塁を守るようになる。そして、長い低迷期間が始まるわけだ。
94年シーズンまでのプロ8年間でわずか通算11本塁打。そんな眠れる大砲が目覚めたのが9年目の95年、66試合で16本塁打を記録。ようやく1軍定着すると、翌96年には39本塁打で松井秀喜を1本差で抑え、初のホームラン王に輝いたのである。まさに10年目の覚醒だ。近年の球界は日本代表クラスの野手は早い段階で1軍定着をするパターンが多いが、山崎のように通算403本塁打中、その半数近い196本塁打を35歳を過ぎてから放つ選手もいる。
岡本はまだ3年目。だが、いつまでチームに待ってもらえるかは分からない。今秋のドラフトでは新たなスラッガー候補を指名するかもしれないし、オフには先日帰国したギャレットに代わる長距離砲タイプの外国人選手を獲得する可能性も高い。どちらにせよ、来季のサバイバルに向けて1軍で何らかのアピールはしておきたいところだ。
残り17試合。今の巨人にとっても、未来の岡本にとっても絶対に負けられない戦いが続いていく。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)