どら増田のオリ熱魂!第17回・山岡泰輔
「よく言われるんですけど、二桁とか新人王とか僕にはまったく興味はないんですよね」
二桁勝利なら新人王の可能性も出てくると言われていたドラ1ルーキーの山岡泰輔だが、23日の西武戦(メットライフD)で敗戦投手(8勝10敗)となり、新人王争いからは一歩後退してしまった。
「シーズン前の僕のコメントを読み返してもらえればわかると思うんですけど、最初の年は7勝くらいかなと思っていたので。何勝狙いますか?と聞かれたときに7勝と答えているんですよ。なので僕の中では(目標を)クリアしている。でも負け越して終わるのはイヤかな。勝ち星より規定投球回数には乗りたいですね。ギリギリのラインなので」
28日現在、山岡は防御率ランキングで7位のエース金子千尋(3.470)に続いて、僅差の8位(3.471)につけている。残りの登板予定は2試合。負け越して終わらないためには、連勝し、「興味はない」と語る二桁を達成するしかない。
試行錯誤の1年目
プロ1年目の山岡はいろいろなチャレンジをしている。8月26日の西武戦(メットライフ)では、プロ初完封を無四球、10奪三振という最高の形で達成したが、この試合について山岡は次のように振り返っている。
「完投するのはアマの方がキツイです。負けたら終わりなので。でもあの試合で僕は基準を作りたかったんです。9回に140球投げても次の試合に残らなかった。ここまでは投げても大丈夫だという基準が僕の中にできたのは大きかった」
プロとアマの違いについても「アマはプロセスが大事なんですけど、プロはプロセスより結果が大事。アマは結果が出るときも出ないときもよく頑張ったって言われますけど、プロは勝たなきゃいい結果じゃないということがよく分かりました」と分析している。
暗黙のルールはルールじゃない
そんな山岡がモットーにしていることがある。それは“暗黙のルール”に縛られないということだ。
「暗黙のルールってあるじゃないですか。僕は絶対守らない(笑)。例えば僕は深爪すると痛くなるから逆にダメなんですよ。悪い影響が出る。でもこれはプロに限らず指導者は爪を切れってピッチャーに言う。それがルールに記載されているなら守りますけど、ルールじゃないでしょ?ちなみに僕の爪は手も足も安い爪切りで切ったら、爪切りが壊れるくらい硬いんです(笑)。だから割れることはないんですよ」
さらに普段のルーティーンについても話を続けた。
「ピッチャーというのは、バッターみたいにバットを使うわけじゃなく、体ひとつで勝負しなきゃいけないから、自分の調子が響くポジションだと思っていて、とにかくストレスは貯めないようにしてます。他のピッチャーはどうしているのか分からないですけど、ストレスが貯まると疲れに繋がって、疲れると気持ちが落ちちゃう。僕は気持ちがいい状態を保ちたいから、ストレスは貯めません。だから欲しい服があれば登板日の前日でも買いに行っちゃいますし、皆さんと話したいときはこうして話す。でも登板の前日にお酒を飲みたいなとは思わない。登板に響くことが分かっているから。それはストレスにはならないんですよね」
この“山岡流”の思考は成績の他に体重にも現れている。「体重は2~3kgしか変わらない。毎年春先に増やせばいいと思っているので」。プロに入ってからもコンディションを維持できていることが、1年目からローテーションを守り抜いている秘訣だろう。
先を見据える近未来エース
「今の僕はエースじゃないですから」と無邪気に笑う山岡だが、近未来エースの雰囲気はプンプン漂っている。
練習法に関してもキャンプから“山岡流”を貫いており、「練習ではストレートと軸になる変化球を投げていて、試合で投げるか投げないかはギリギリまでわからないですけど、球種は毎年増やしていきます。投げられる球は多いほうがいいし、試合で投げていけばコントロールはつくので」と話すように、来年以降を見据えた準備も怠らない。
「人生は一回しかないので、やりたいことをいっぱいやりたいですね」
これは昨年12月に行われた新入団選手合同記者会見のあとに、本人から聞いた言葉。今の山岡を見ているとまさにこの言葉を実践しているように見える。山岡の二桁勝利もファンにとっては数少ない希望のひとつ。「他人を喜ばせるのが好き」と語る山岡なら、やってくれるに違いない。
取材・文=どら増田(どらますだ)