白球つれづれ~第31回・宮崎敏郎
横浜DeNAが2年連続でクライマックスシリーズ(以下CS)進出を決めた。
1日の対広島戦は乱打戦の様相を呈したが、主砲・筒香嘉智の2発やJ・ロペスの劇弾などで快勝。試合後には観戦に訪れたオーナーの南場智子から監督のA・ラミレスに対して来季の続投要請が出されるなど、お祝いムードに包まれた。
巨人とのし烈なAクラス争いに決着をつけたが、もう一つの巨人との戦いもあった。DeNAの宮崎敏郎と巨人のC・マギーとの首位打者争いだ。
夏場以降、抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げてきたが、この日の宮崎が3安打の固め打ちで打率を「.322」まで伸ばす。対するマギーは阪神戦で1安打のみに終わり、こちらは「.314」。残り試合が巨人は「1」でDeNAは「2」。この時点での8厘差は大きい。仮にマギーが最終戦で4打数4安打でも届かない。もちろん、宮崎が試合に出続けて、打率が急降下する可能性も残されているが、チームとしては当然そのあたりは勘案するはずで、事実上の首位打者決定と言ってもいいだろう。
裏街道からの苦労人
愛称は「ハマのプーさん」。童顔の29歳は遅咲きの安打製造機である。社会人のセガサミーから12年のドラフト6位で入団。普通、社会人野球のスラッガーなら上位指名が定位置だが、そこまで評価は高くなかった。名門高校、大学のエリートコースとは縁遠く、佐賀の厳木高から日本文理大で腕を磨く。もちろんこの時点でプロから声がかかるわけもなく、就職活動でも10社以上の名門企業から不採用通知が来たというエピソードが残る。つまり裏街道から這い上がってきた苦労人なのだ。
才能が開花したのはプロ入りから4年経った昨年から。勝負強い打撃でベンチの信頼を勝ち取るとプロ入り初の100試合、10本塁打をマークして今季の飛躍につなげた。
「元々、打撃は良かったが、プロの水に慣れて体も出来てきた」とGMの高田繁も評価するバッティングでは、今やロペス、筒香と並ぶクリーンナップに定着した。打点王を手中にするロペスと侍ジャパンの四番を任される筒香。その破壊力を証明したのが8月22日の広島戦(横浜)だった。3点を追う9回裏、筒香の2ランで1点差に迫るとロペスが同点ソロ、そして最後は宮崎の劇的サヨナラアーチで決着をつけた。三者連続本塁打による逆転サヨナラ勝ちはプロ野球史上初の快挙だった。
5番の重要性
古くから強豪チームには強力なクリーンナップがいた。V9巨人なら王貞治、長嶋茂雄に末次利光。西武黄金期は秋山幸二、清原和博にO・デストラーデ。中でも5番打者の働きは必要不可欠だ。3、4番だけなら状況によって歩かされるなど破壊力が半減されるが、5番に強打者がいれば勝負せざるを得ない。現在のチームに目を転じてもパリーグの覇者であるソフトバンクには柳田悠岐、内川聖一にA・デスパイネがいる。ベイスターズは宮崎の成長でリーグ屈指の強力なクリーンナップを形成することが出来たのだ。
「前に上体が突っ込まなくなって自分の“間”で打てるようになった。彼の持ち味はセンターから右方向に打てること」。打撃コーチの小川博文が評価するように宮崎の安打は左翼から中堅、右翼とほとんど同数に量産されている。高打率を残す秘訣であり、相手投手からすればこれほど厄介な打者もいないだろう。
14日からのCSで、まず対戦する阪神と比較してもクリーンナップの破壊力なら負けない。加えて左打者の主力が多い阪神に対して伸び盛りの石田健大、今永昇太、浜口遥大の左腕トリオ擁する投手陣にも「下剋上」の臭いがする。異色の首位打者(確実)・宮崎のバットにも益々、注目が集まる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)