コラム 2017.10.17. 20:00

巨人に問われる不退転の覚悟

無断転載禁止
背番号はNPB時代と同じ「25」

白球つれづれ~第33回・巨人の決断


 今月13日、巨人から衝撃的なニュースが舞い込んだ。中心戦力であった村田修一への自由契約通告。「苦渋の決断」としながら、ゼネラルマネージャー(GM)の鹿取義隆は、その背景を説明する。

「チームが若返るため。戦力になる力はまだ十分あるが、多くの出場機会を与えることは難しい」。

 村田クラスの選手になるとFA放出の場合、多額の保証が獲得球団には必要となる。他球団への移籍をしやすくするため「せめてもの誠意」(鹿取GM)が自由契約という形だった。

 なるほど、今オフの巨人はBクラス転落の不成績もあって若返りと粛清の波が押し寄せている。村田以外には、相川亮二、片岡治大のFA移籍組や松本哲也、藤村大介の元新人王など、現時点で計10人が退団。個人的には新人王を獲得した選手をその後、育てきれなかった球団及び指導者に首をかしげたいところもあるが、チームが改革への第一歩を踏み出したのは間違いない。


巨人の青写真とジレンマ


 今季も開幕直後はベンチを温めていた村田だが、期待する若手は伸び悩み、終わってみれば三塁・村田、二塁にC・マギー、一塁に阿部慎之助とベテラン頼み。この3人の平均年齢は37歳だから苦しい。

 来季の構想では村田の放出で空く三塁にマギーを戻して将来の大砲と期待する岡本和真を外野から再コンバート。二塁には昨年のドラフト1位・吉川尚輝の大抜擢を描く。華やかなクライマックスシリーズの裏で敗者はすでに秋季練習をスタート。監督の高橋由伸は「今春キャンプの1.5倍の振り込みをさせる」と打棒復活に力を入れる。

 しかし、村田の穴を仮に若手で埋められたとしても、それだけで不十分なのが巨人の現状だ。今季のチーム成績を見ると本塁打(113本)はリーグ4位。個人で20ホーマーは一人もいない。ちなみに同トップの広島は152本で40本近い差がある。そこで、またぞろ大補強作戦である。

 30本塁打以上打てる大砲候補として中日のA・ゲレーロとヤクルトのW・バレンティンをリストアップ。新旧の本塁打王に食指を伸ばしているという。特にゲレーロの場合は単年5.5億円の3年契約を中日に提示して交渉は決裂。これだけの巨額を支払えて獲得の動きを見せているのは巨人だけ。うまく獲得となれば左翼を任せることになる。

 さらに投手陣にも不穏な動きはある。エースのM・マイコラスと貴重なセットアッパーであるS・マシソンにメジャー球団から誘いがあり、来季契約が不透明なまま帰国してしまった。チーム関係者の中には「契約金つり上げのための駆け引きでは」と解説する向きもあるが、もしゲレーロに大金が動けばマイコラスらにも影響が及ぶのは必至で長期戦となる可能性もある。交渉次第では今オフにFA権を取得する日本ハム・増井浩俊や西武・牧田和久らの獲得も検討されるはずだ。

 昨オフには陽岱鋼、山口俊、森福允彦の3選手をFAで獲得。30億円大補強と話題を呼んだが結果は惨憺たる有様で終わった。普通で言えば「FAはもうこりごり。今度こそ自前の戦力を育成」と行きたいところだが、4年連続のV逸ではそうとばかりも言ってはいられない。そこに「常勝軍団」の看板を掲げる名門の苦悩がある。


辻・西武というサンプル


 チームの大転換期に何をなすべきか?ひとつのヒントが今季の辻・西武にある。新監督に就任した辻発彦は若返り策を進めるうえで、機動力と守備力を重視。かつての本塁打王である中村剛也とE・メヒアを四番や先発メンバーから外してしまった。勝負強い打撃に定評のある栗山巧までベンチに押しやり、代わって新四番に山川穂高を大抜擢。外崎修汰や新人の源田壮亮らは開幕直後こそ打率2割程度だったのが、辛抱して使い続けるうちに貴重な戦力となっていった。チーム内競争の激化と意識改革でここまで生まれ変われるという格好のサンプルとなった。

 要は名前ではなく、チームの強化方針がフロントから現場まで意思統一されて戦う集団になれば、その時点で戦力は確実に上がる。村田を放出してまで若返りを図るなら、その策を徹底する不退転の決意が必要不可欠となる。数年後にチームの幹となる選手は誰か?外部から選手を獲得するのは本当に必要な者だけに限る。

 まもなく今年のドラフト会議が開かれる。注目の清宮幸太郎(早実)が熱望する「育成力」をアピールするためにも、生まれ変わった巨人を見せる時が来ている。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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