規定の443打席に届かずとも活躍した選手
10月10日をもって、2017年のプロ野球ペナントレースが終了。同時にセ・パ両リーグの各タイトルホルダーも決まり、打撃タイトル三部門のひとつである首位打者はDeNAの宮崎敏郎と、西武の秋山翔吾がそれぞれ受賞した。
打撃タイトル三部門のうち、首位打者だけがシーズン中に定められた規定打席数(チームの試合数×3.1)を満たすことが必須条項。レギュラーシーズンが143試合制の現在の場合は443打席に立たないと公式の打率記録として認められないため、その打席数をクリアしない限り、いくら高打率を残していても記録には残らない。「無事是名馬」の格言ではないが、故障せずに1年間乗り切るというのも一流打者の証しと言える。
しかし、今年の首位打者の打率は、セ・パともに打率.320台と例年に比べるとかなり低調なもの。統一球時代だった2012年以来、5年ぶりに打率.330以下を下回った。そもそもセ・パ両リーグで3割以上の打率を記録したのはわずか9名と、昨季の15人に比べるとはるかに少ないものだった。
今季の規定打席到達打者は全体的に低調に終わったが、故障で出場機会を減らした選手や、あと少しで規定打席に届かなかった選手には素晴らしい成績を残した選手がいる。そこで、今季200打席以上に立った規定打席未到達の打者たちのなかから好成績を挙げた3割以上の選手を振り返ってみたい。
鈴木の穴を見事に埋めた松山竜平
まずはセ・リーグから。
▼松山竜平(広島)
120試合出場 387打席 打率.326 14本塁打 77打点
まず挙げたいのが、今年の広島を支えたひとりと言っても差支えのない活躍を見せた松山竜平。今季もブラッド・エルドレッドらとの併用で規定打席を逃したが、打率.326は200打席以上の規定打席未到達選手のなかではセ・リーグのトップ。今季のセ・リーグ首位打者である宮崎敏郎の打率.323をわずかに上回る。
そんな松山の今季最大のハイライトといえるのが8月。それまで4番を打っていた鈴木誠也が戦線を離脱すると、空いた4番の座に君臨し好打を連発。チームが優勝争いの渦中にあった9月には打率.426、5本塁打、23打点という驚異の成績を叩き出してリーグ優勝に向けたラストスパートに大きく貢献した。
▼俊介(阪神)
74試合出場 202打席 打率.309 4本塁打 23打点
投手では桑原謙太朗、秋山拓巳らがブレイクした阪神だが、ブレイクした野手といえば、この俊介も該当する。内外野をこなせるユーティリティープレーヤーという評価で、「守備の人」というイメージが強い選手だったが、今季は交流戦の時期から打撃が好調で6月13日の対西武戦では自身3年ぶりとなる本塁打を放ち、上位争いが熾烈を極めた夏場には完全にレギュラーに定着した。
8月6日の対ヤクルト戦では自身初となる4打数4安打の猛打賞を達成するなど、一度打ち出したら止まらない固め打ちを見せ、阪神打線のチャンスメーカーを担った。今季で国内FA権を取得しただけにオフにはその去就にも注目が集まる。
▼雄平(ヤクルト)
71試合出場 300打席 打率.306 2本塁打 32打点
67年ぶりにチームワースト記録を更新する96敗を喫したヤクルト。故障に泣かされた選手が多かったが、そのひとりとして挙げられるのが雄平。開幕からクリーンアップを務めていたが、6月末に右手の有鈎骨を骨折して戦線から離脱した。全治3カ月と診断され、ようやく復帰できたのはシーズン最終戦となった対巨人戦。この試合でヒットを打ち、打率は.306をマークした。
ちなみに規定打席到達・未到達にかかわらず、今季のヤクルトで200打席以上に立ち打率3割を超えたのは雄平のみだった。
夢のシーズン4割打者候補
そして、パ・リーグでは次の打者が200打席以上規定打席未満で打率3割を超えた打者たちだった。
▼近藤健介(日本ハム)
55試合 225打席 打率.409 3本塁打 28打点
今季低迷した日本ハムにあって、注目を集めた選手のひとりが近藤健介。もともと打撃には定評があり、2015年には規定打席に到達して打率.326を記録していたが、今季はその打撃に磨きがかかり開幕からヒットを量産。打率は4割を超えたままで推移して交流戦に突入した。セ・リーグの投手相手でも安打を放ち続けたが、6月3日の対阪神戦で右太腿に張りを訴え、その3日後の代打出場を最後に登録抹消。検査の結果、腰部の椎間板ヘルニアと判明し3カ月の戦線離脱となり、プロ野球史上初となる打率4割打者は夢へと消えた。
しかし、9月28日から一軍に復帰するとそれまでと変わらない打棒を披露して、復帰後の打撃成績は19打数8安打で打率は驚異の.470。来季こそ夢の4割打者誕生に期待したい。
▼大谷翔平(日本ハム)
65試合 231打席 打率.332 8本塁打 31打点
2017年も多くの選手が故障に泣かされたが、大谷翔平もそのひとり。シーズン前のWBC日本代表も足首の故障のために辞退するなど、決して万全の状態でないままシーズンに入った。そして、開幕間もない4月10日に左足肉離れを発症して戦線を離脱するなど、最後まで波に乗り切れないままシーズンを終えてしまった。
しかし、打撃成績自体は例年以上の好成績をマーク(昨年は382打席で打率.322)。近藤と大谷が万全のままシーズンを戦えれば、ソフトバンクの独走を許さず「連覇もあったのでは?」と想像した日本ハムファンも多いことだろう。来季はメジャー移籍が噂されるが、万全の状態でシーズンを迎えてほしいと祈るばかりだ。
▼吉田正尚(オリックス)
64試合 268打席 打率.311 12本塁打 38打点
糸井嘉男が阪神に移籍したため、「ポスト糸井」として期待されて臨んだ今季の吉田正尚。昨オフのアジア・ウィンター・リーグの大活躍もあり期待されてのシーズン入りだったが、開幕直前のオープン戦中に腰痛を発症。開幕から3カ月も離脱することになってしまった。しかし、7月に一軍に復帰すると2戦目の対日本ハム戦で今季初アーチを放つなど、持ち前の打棒が爆発。規定打席未到達ながら2年連続で2桁本塁打を記録した。フルシーズン出場を果たせばどれだけの数字を残すのか楽しみな選手なだけに、来季こそはケガなくシーズンに臨みたい。
記録に残る規定打席到達選手よりも、ある種記憶に残る“濃い活躍”を見せた規定打席未到達の打率3割以上の打者たち。来季こそは規定打席をクリアして、記録にも記憶にも残る活躍を期待したい。
文=福嶌弘(ふくしま・ひろし)