白球つれづれ~第38回・メジャーリーグと日本人
日本から米国へ。野球界の人材流出が止まらない。
今オフは日本ハムの“二刀流”大谷翔平のポスティングによるメジャー挑戦が実現。日本時間14日から行われたMLBのGM会議でも、異次元の男に話題は持ち切り。その他にも、涌井秀章(ロッテ)や牧田和久(西武)、平野佳寿(オリックス)といったパ・リーグの主力投手たちが相次いでメジャー挑戦を表明している。
球界のご意見番である張本勲は「このままでは日本球界が潰れてしまう」とテレビ番組で嘆いたようだが、富士山を征服した登山家が次なるターゲットに世界一のエベレストを目指しても止めようがない。ましてや、WBCや五輪で世界一に向けたしびれるような戦いを経験したら「世界を舞台に」と考えるのは当然の流れ、と言えるだろう。
「50まで現役」めざすイチローも…
もっとも、日本人メジャーリーガーのすべてがバラ色の夢に包まれているわけではない。今オフは特にベテランたちに冷たい風が吹き付けている。
代表格はマーリンズから事実上の戦力外通告を受けてFAとなったイチローだ。17年間に及ぶメジャー生活だけでも3080本の安打を放ち、引退すれば即アメリカ野球殿堂入りが確実視される至宝も44歳。本人は「50歳まで現役」を宣言して今季も代打中心ながら、後半戦に限れば3割近い打率を残している。
しかし、彼を取り巻く環境の激変が痛かった。このオフに同球団は旧経営陣が経営権を譲渡。イチローの実績と人気を評価する前オーナーなら契約の継続も有力視されていたが、新経営陣はチームの解体的な再建に伴い、大幅な人件費削減に着手。これに伴い、レジェンド・イチローも吹き飛ばされた格好だ。
メジャーでも一目置かれる存在のイチローの去就は、GM会議でも話題には上っている。現地紙の報道では古巣・マリナーズ復帰も囁かれているが、現実的には外野の層の薄いジャイアンツ、カージナルスらが獲得を検討中のようだ。いずれにせよ、各球団ともにチームの骨格となる主力の顔ぶれが揃ってからの二次的補強になり、長期化は避けられそうにない。
苦しい立場のベテランたち
そのイチローよりもさらに苦しい立場に追い込まれているのが、前メッツの青木宣親だ。
今季だけでもアストロズを皮切りにブルージェイズ、メッツとトレードの続いた渡り鳥。メジャーでも常に2割7~8分台の打率を残す巧打者だが、すべてにパンチ不足は否めない。
イチローも同様だが、メジャーでは単打を重ねるより一発で試合の流れを変えるロングヒッターの方が評価は高い。多くのチームが若手への切り替えを図る中、来年1月に36歳を迎える年齢もネックとなり、一部ではマイナー契約や日本球界復帰も取りざたされている。その場合はヤクルトが有力だろう。
投手に目を転じると、前カブス・上原浩治の進路が不透明だ。かつてはレッドソックスの守護神を務めた名リリーバーも42歳。今季は背中の痛みなどで9月から戦列を離れるなど不本意な年となった。
本人は「メジャー復帰が叶わなかったら引退」と覚悟を決めているようだが、大幅な年俸減やこちらもマイナー契約を含めてメジャー復帰の道を探るのか、厳しい選択が待ち受けている。
右肩痛でシーズンを棒に振った岩隈久志も、一旦はFAとなったものの在籍するマリナーズで再出発となりそうだ。同球団からオファーがあったことを明かしており、近日中にも発表があるとみられる。メジャー通算63勝の先発候補ながら来季は37歳。肩の手術の影響もあり、本格復帰は順調に回復しても来年5月以降。選手生命を賭けたシーズンとなりそうだ。
今月MLB公式サイトで発表された「今オフのFA選手注目度ランキング」によれば、1位にダルビッシュ有(ドジャース)、2位に大谷翔平と日本勢が上位を独占した。先のワールドシリーズでは乱調続きで世界一を逃したが、ダルビッシュの持つポテンシャルの高さは折り紙付き。大谷は期待値の高さがそのまま反映されたものと見られる。
一方でイチローや青木、上原らはランク外。これが現実だ。光と影、とは言いたくない。かつてのヒーローたちが苦しみ、這い上がってくる姿も見てみたい。それもまたアメリカンドリームである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)