セ最後の40盗塁は2010年の梵英心
セ・リーグよりパ・リーグの野球のほうが面白い――。かつては「人気のセ、実力のパ」と呼ばれた時代もあったが、パ球団の地方への定着や相次ぐ注目新人のパ球団への入団もあり、パ・リーグ人気はセ・リーグに匹敵するものとなった。いや、既にそれ以上かもしれない。交流戦や日本シリーズにおける圧倒的な勝率に表れる実力のほか、人気、そして野球そのものの面白さでもパ・リーグが勝ると語られることも少なくない。
いうまでもなく、両リーグの明白なちがいはDH制の有無にある。DH制を採用するパ・リーグでは投手が打席に立たないために、野球の質がより攻撃的、積極的になるという評価が一般的だ。ただ、パ・リーグ野球のアグレッシブさが表れるのは本塁打や得点ばかりではない。盗塁もそのひとつだ。セパの盗塁数には大きな隔たりがある。今季、セ・リーグの総盗塁数404に対し、パ・リーグは441だ。
投手が打席に立たないのだから、パ・リーグの総盗塁数がセ・リーグを上回るのは当然といえる。しかし、盗塁王の記録でもパ・リーグはセ・リーグを凌ぐ。セ盗塁王がパ盗塁王を記録で上回ったのは、33盗塁の西岡剛(当時ロッテ)を41盗塁で抑えた2006年の青木宣親(当時ヤクルト)が最後だ。今季もセ盗塁王・田中広輔(広島)の35盗塁は、パ盗塁王・西川遥輝(日本ハム)が記録した39盗塁の後塵を拝することとなった。
また、セ・リーグでは40盗塁自体が長く記録されていない。43盗塁をマークした2010年の梵英心(前・広島)がセ・リーグ最後の40盗塁到達者だ。一方のパ・リーグでは、昨季、糸井嘉男(当時オリックス)と金子侑司(西武)がそろって53盗塁を記録したほか、過去10シーズンのうち実に8シーズンの盗塁王が40盗塁を上回る数字を残している。
ファンを魅了する盗塁の増加を望む
戦術面からいえば、盗塁は手放しに褒められるものではない。失敗すればチャンスの芽を自ら摘むことになり、あえて“盗塁をしない”という戦術をとるケースもあるからだ。しかし、ファンとしては盗塁というプレーをもっと見たいと思うのが自然だ。盗塁を狙えるスピードを有しながら盗塁に消極的な選手(球団)には、歯がゆさを感じるだろう。
積極果敢でスリリングな盗塁には見る者を引きつけるものがある。辻発彦監督のもと、チームカラーを一新させ、12球団最多の129盗塁を記録した今季の西武はその最たるものだろう。かつての本塁打は量産しても足を絡めることはなかったチームはもうない。盗塁のほか、ひとつでも先の塁へ進もうという積極的な走塁意識が垣間見える今季のプレースタイルには、西武がひいき球団でなくとも魅了される野球ファンは多かったはずだ。
巨人人気にも陰りが見え、実力・人気ともにパ・リーグに押され気味のセ・リーグのチームには、来季こそ「盗塁」という積極的なプレーを多く見せてほしい。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)