白球つれづれ~第42回・逆輸出
「日本野球は4Aクラス」。ある大リーグ関係者が面白い分析をしていた。ご承知の通り、大リーグには頂点に立つメジャーの傘下に3A、2A、1Aとマイナー球団があり、さらにその下にルーキーリーグや独立リーグとすそ野が広がる。
近年では多くのチームが野球の盛んな中南米各国にも手を伸ばし、いわゆる「青田買い」に余念がない。そんな中で日本野球のレベルをメジャーほどでもないが3Aよりは上という意味で「4A」と表する造語が飛び出したわけだ。うーん、何とも微妙な評価である。
なるほど、投手だけを見れば松阪大輔から上原浩治、岩隈久志にダルビッシュ有、田中将大とMLBにあっても目を見張る活躍をしてきた。一方で野手に目を転じるとイチローと松井秀喜を除いては今一歩の感は否めない。
さて、今オフは大谷翔平を筆頭に平野佳寿や牧田和久、涌井秀章らの投手がメジャー挑戦を表明しているが、新天地で日本野球のレベルの高さを証明してもらいたいところだ。
日本で成長したマイコラス
こうした観点から見て興味深い移籍劇がある。巨人を退団してメジャー復帰を果たしたM・マイコラスの「逆輸出」。G党には何とも痛い退団には違いない。エースの菅野智之と共に両輪の働きを見せ、3年間の在籍で31勝13敗、防御率は2.18と抜群の安定感を誇ってきた。
150キロ後半のストレートと大きく縦に割れるカーブを武器に、今季は最多奪三振のタイトルも獲得した。シーズン中からメジャー復帰の意向も流れていたが、今月早々に名門カージナルスとの2年契約が発表された。年俸総額は2年で1550万ドル(約17億5000万円)と言われる。1年8億7500万円の計算になる。
2015年に来日前のマイコラスのMLB通算成績を調べると3年間で37試合に登板して4勝6敗、防御率は5.32。とても成功者とは言えない。それがどうして日本で生まれ変われたのか?
「日本ではストライクゾーンの使い方を学んだ。日本の打者は高めの速球でもワンバウンドになる変化球でもしっかり当ててくる。そのことは自分にとって非常に大きかった。より球種に磨きをかけることを心掛けたんだ」と、MLB関連のインタビューでマイコラスが自身の変身理由を語っている。
粗削りなほどパワフルなメジャーの打者に通用しなかった投球を、より精密なコントロールとより精度の高い変化球を身につけることで、再びメジャー関係者の目に止まったのだ。
逆輸出で活躍した選手たち
過去にも「メイド・イン・ジャパン」としてメジャーに戻って大活躍した例はある。いくつかの例を挙げてみる。
打者の代表格は1980年代に阪神で活躍したC・フィルダーである。入団1年目に38ホーマーを記録して、けた外れのパワーを発揮したがそのオフに大幅年俸アップと複数年契約を要求するも決裂して90年にはデトロイト・タイガースに移籍。すると、いきなり51本塁打132打点で二冠、翌年もまた同部門で二冠王に耀いている。彼もまた、日本野球の変化球攻めに苦しみながら、耐えて工夫する打撃術を身に着けたことが成功の秘訣と言われた。
投手で記憶に新しいのは2008年から広島で活躍したC・ルイスだ。メジャーに復帰するとダルビッシュの在籍したレンジャースで共に先発メンバーとして投げていた姿を記憶するファンも多いと思う。ルイスもメジャー復帰後に61の白星を記録している。
近年のMLBでは、投手陣の編成に頭を悩ます球団が少なくない。中でも弱小球団では先発投手の頭数すら揃えられない例もある。FAの定着で高額なエースは金満球団に引き抜かれる。球団経営優先のため、やむなくトレードを画策するケースもある。こうした背景もあって、日本で急成長を遂げた選手は、比較的割安で獲得できるからマイコラスのような逆輸出は、より多くなっていくだろう。さて、大谷とマイコラスのどちらが先にファンの心をつかむか?舞台は米大陸に移った。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)