毎年恒例の…
極寒の2月が嘘のように春めいてきた関西地方。ひと月にわたるキャンプを終えた在阪球団がホームに戻ってオープン戦を戦うのと、梅の開花がこの地域の春を告げる。
今や唯一のパ・リーグ在阪球団となったオリックス・バファローズは、例年この時期に“激励パーティー”を行う。この球団のパーティーの特徴は、財界やスポンサーだけでなく、ファンも参加しての大パーティーというところにある。
チーム一同が、ファンとふれあい、シーズンに向けて気持ちを新たにする集い。その現場に足を運んだ。
「今年こそ」が現実になるのを心待ちにするファン
「毎年同じことを言っているのですが…」
ここで笑いが起こるところに、オリックス・バファローズというチームの現状が現れている。
大阪市内のホテルで行われる激励パーティー。在阪財界を代表しての後援会長のパーティー冒頭の挨拶は、例年同じ言葉から始まる。
1996年、「がんばろう神戸」を掲げての日本一からはや四半世紀。リーグを代表する強豪だった前身の阪急ブレーブスのイメージも今は昔。すっかりBクラスが指定席となったチームに、後援会長の言葉もいつの間にかきついトーンになる。
「開幕は期待させたが、その後あっという間に失速。ケガ人が続出したことが原因だろうが、今年はベテランから若手、外国人選手に至るまでしっかり補強をしてくれたと思う。ファン層も年々厚みを増している。オリックスには『おとなしいチーム』というイメージがついているが、今年はキャッチフレーズの『勇敢に』の言葉どおり勇猛果敢に突き進んで結果を出してほしい」
会長は場内の一堂に拍手を求め、壇上に集った監督・コーチ、そして選手にエールを送った。
続いて舞台に上がったのが、宮内オーナーだ。老舗常勝球団を買い取った責任は誰よりも感じていることだろう。その上、近鉄球団を吸収しての大阪進出。昭和最後の年に同じ在阪球団を買い取り、福岡に移転したホークス球団がいまや最強チームとなり、一連の球団合併騒動の結果誕生した楽天イーグルスがすでに日本一を達成したことには、オーナー自身忸怩(じくじ)たる思いがあるはずだ。
後援会長の辛口のスピーチを受けて、「毎年同じ繰り返しで居心地が悪い」と言いながら、合併以来の13年があっという間に過ぎたことを回顧。昨年逝去した当時の近鉄本社会長・山口昌紀氏を偲びながら、今季への思いを場内一堂に伝えた。
「ケガ人によってチームが沈んでいったのは、ひとえに層の薄さにある。レギュラークラスは他球団に決してひけをとらない。弱点は、今シーズンを前にして十分に補った。何と言っても、ドラフトのくじで勝ったのはこれまでになかったこと」
と場内を笑わせながらも、ドラ1で田嶋大樹(JR東日本)を引き当てた戦力補強に、オーナーはペナントへ自信満々の姿勢をみせた。
先述したように、このパーティーにはファンも参加している。彼らは年間指定席の購入者や、18万円也の会費を支払った高級ファンクラブ会員というコアなファンたちだ。年一度、オリックス・バファローズの面々を独占できる贅沢なパーティーに参加する彼らの思いも、四半世紀ぶりの優勝に向いている。
支援者、ファンの思いを胸に…
選手・指導者一同は、立食パーティーの間、約1時間ファンと触れ合う。オープン戦もたけなわになるこの時期、かなりの「重労働」だが、ファンの思いを直接感じる貴重な場でもある。
慣れない手つきでペンを走らせる若手選手はともかく、首脳陣や主力選手にとってはある意味「針のむしろ」かもしれない。パーティーという場所柄、直接厳しい言葉が投げかけられることはないが、励ましの言葉が、逆にチクリとすることもあるだろう。
パーティーのはじめと終わりには、チーム一同で参加者に挨拶をする。オープンニング・セレモニーでは、福良監督が結果が出ていないにもかかわらず応援してくれるファンに礼を述べながら、大きなケガ人がでなかったこの春のキャンプに手ごたえを感じている旨、いつもの訥弁で披露した。
続いてマイクを握った選手会長のT-岡田は、昨シーズン終了後から積み上げてきた鍛錬の成果をシーズンで見せることをファンに約束。個人的にはキャリアハイ、チームとしてはビールかけをすることを目標に掲げた。
パーティーの半ばでは、新戦力・主力選手が壇上に立ち、各々の抱負を披露。「駿太」から登録名を変え、真の主力への脱皮を図る後藤駿太は、登録名の変化にも、「僕は生まれたときから『後藤』ですから。呼び方にはこだわりません」と大人の対応。話題性ではなく、ポジション確保の上での、実力での知名度アップを誓っていた。
またその体調がファンの最大の心配事である内野の要・安達了一は、その体調を危惧しての球団の補強にも、「おかげでいい競争ができている。これまで順調に来ているので、今年は盗塁を稼ぎたい」とポジション争いより、もう一段上の目標を掲げてくれた。
そして、ある意味ペナント奪取のカギとも言える“未完の大砲”・吉田正尚。デビュー以来2年間、腰痛で戦線離脱しながらの2ケタホームランに、ファンも「フルシーズンプレすればどれだけの数字を残すのだろう」と期待を抱かせる若き大砲は、「もう腰は大丈夫。今年はキャリアハイとビールかけ」と抱負を述べてくれた。その彼の言葉が現実になれば、「オリックス・バファローズ」としての初の栄光はぐっと近づくはずだ。
この時期、すべての野球ファンは幸せである。「今年はどんなプレーを見せてくれるのだろう」というひいき選手への期待と、秋にはペナントを獲るであろうひいきチームへの期待で頭がいっぱいになるのだから。
その期待が、例年夏休みまでにはしぼみきっていたオリックスファン。“夢の風船”を秋に弾けさせることを、ファンは心待ちにしている。
文=阿佐智(あさ・さとし)