コラム 2018.03.14. 18:00

通算出場“わずか1試合”の野球人生

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ジョン・パチョレックのメジャー通算成績がコチラ

1度も打席に立てなかった男


 先日、JRA(日本中央競馬会)でヘヴィータンクという馬が話題となった。

 初出走が重賞レース(G2・弥生賞)という異例のデビューが注目を集めるも、結果は大きく離された最下位。さらに、その数日後にはその1戦限りで引退することが発表され、再び大きく報じられた。わずか1戦というキャリアでここまで話題になった馬は、過去にもいなかったのではないだろうか。

 この話題で思い起こされたのが、アメリカの野球映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年)である。この映画で取り上げられたムーンライト・グラハムという選手は、公式戦1試合の出場のみで現役を引退した。

 グラハムは1877年生まれの実在する野球選手。1905年に念願のメジャーデビューを果たすと、その試合で8回から守備に就いた。しかし、9回表に直前の打者が打ち取られ、一度も打席に立つことなく試合は終了。結果、その試合がグラハムにとって生涯唯一の出場となり、“打席に立てなかった悲劇の選手”としてアメリカでは有名だ。


1球も投げなかった男


 グラハムと似た経歴の持ち主なのが、現在68歳のラリー・ヨーントだ。

 名前を聞いてピンと来た人も多いだろう。弟のロビン・ヨーントはブリュワーズ一筋で通算3142安打を放ち、資格初年度に野球殿堂入りを果たした名選手である。

 一方、兄のラリーは投手として1試合に出場しているが、実は1球も投げていない。

 ラリーはアストロズに所属していた1971年9月15日、ブレーブス戦の9回に出番が回ってきた。しかし、当時21歳のラリーは投球練習中に肘に痛みを感じ、マウンドでの投球練習でもその痛みが消えなかったため、1球も投げることなくマウンドを降りているのだ。

 ルール上、投手は最低打者1人に投げないといけないのだが、故障した場合はこの限りではなく、このルールが適用される形となった。しかし、ラリーの名前は既にコールされており、記録上は1試合に登板したことになっている。その後はマイナー生活を送ったが、再びメジャー昇格を果たすことなく、1976年に引退した。


5打席立って1度も凡退しなかった男


 現在73歳のジョン・パチョレックも、野手として1試合の出場を記録したのみでユニフォームを脱いだ男だ。

 弟のジム・パチョレックといえば、日本でもお馴染みの選手だろう。1988年から93年まで大洋と阪神の主力打者として活躍。首位打者に輝くなど、超優良助っ人として知られている。

 兄のジョンは、コルト45s(現アストロズ)に在籍していた1963年9月29日のメッツ戦でデビュー。「7番・右翼」で先発出場したジョンは、5打席で3打数3安打をマーク。さらに2四球と全打席で出塁を果たし、4得点に3打点のおまけつき。まさに最高のデビュー戦となったのだが、運悪くその試合がシーズン最終戦だった。

 それ以降、ジョンはケガに悩まされ、一度もメジャーに再昇格することができず。結局、1969年に現役を引退した。通算打率10割という記録を持つ打者はメジャーで25人いるが、その中でもジョンの打席数が最も多いことは言うまでもないだろう。


 1球も投げられなかった男と、最高の輝きを放った男。ヨーントとパチョレックは、ともに「メジャー通算1試合」という同じキャリアであるが、その内容はまるで異なる。これに関しては、「フィールド・オブ・ドリームス」のグラハムの台詞がすべてを物語っているのではないだろうか。

 「人生の節目となる瞬間に遭遇したとしても、自分では気がつかない。『また次があるさ』と考えるだろう。でも二度とその機会が訪れる事はない」。


文=八木遊(やぎ・ゆう)


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