白球つれづれ2018~第4回・屈辱の先に見える夢
54勝87敗2分――。昨季の千葉ロッテマリーンズの成績だ。
優勝したソフトバンクからは実に39ゲーム差。チーム打率も、防御率もリーグワースト。これではファンの足も遠のき、観客動員数も前年を大きく割り込んで、こちらも最下位。指揮官の伊東勤が辞任して、後任には井口資仁が指名された。
これだけどん底に沈むと、再建は容易ではない。どこから手を付ければと頭を抱え込むものだが、逆に見ればこれ以上の地獄はそうそうない。そう。上がり目だけを信じて這い上がるだけ。そんな逆襲の息吹がオープン戦を見る限りでは見えてきた。
“春の使者”は即戦力ルーキーたちだ。ドラフト2位の藤岡裕大と同4位の菅野剛士の評判がすこぶるいい。
開幕前の最終戦となった25日のオープン戦・中日戦では、「2番・遊撃」で先発出場した藤岡が先制の口火となる二塁打を含む2安打。負けじと「6番・左翼」で登場した菅野もマルチ安打に盗塁と勝利に貢献する。
この時期の期待に違わぬ活躍は、ペナントレース開幕の楽天戦の先発出場に大きく前進を意味する。ルーキーが2人揃って開幕戦の先発オーダーに名を連ねれば、チームでは1997年の清水将海と小坂誠コンビ以来で21年ぶりのこと。新生・井口マリーンズの起爆剤となり得る新戦力だ。
井口マリーンズの秘蔵っ子に?
昨年のドラフト前に「西武の源田(壮亮)より好素材がいる」と在京球団のスカウトから聞いたのが藤岡だった。
源田壮亮と言えば、昨年のパ・リーグ新人王。彼が辻西武のショートのポジションに入ることで、チームは劇的に変わった。内野の要であり、センターラインが強化される。しかも、打線に入れば一発屋揃いの陣容の中で俊足のつなぎ役として定着。西武躍進の立役者となった。
実はこの源田と藤岡は、社会人・トヨタ自動車でポジションを争っていたことがある。結局はショートは源田が務め、藤岡は外野を守るなどの苦労も重ねた。源田がプロ入りしてからはその穴を埋めるようにショートへと戻り、こうして1年後のドラフト指名を勝ち取っている。
キャンプ時から実践的な打撃と堅守を評価されてレギュラーの切符を掴みかけたが、3月上旬の日本ハム戦の際に首を痛めて戦線離脱。復帰に時間を要したものの、再び戦列に戻ると安打を量産。規定打席不足ながらオープン戦の通算打率は.538という驚異の数字だ。
井口資仁監督は就任直後に内野陣の大コンバートを敢行、二塁の鈴木大地を三塁に、遊撃と三塁を守ることの多かった中村奨吾を二塁に配置転換。藤岡が「2番・遊撃」に定着すれば、昨年とは大幅に布陣が変わる。生まれ変わったロッテのキーマンと言っても過言ではない。
この藤岡が源田の陰に隠れた存在だったのに対し、菅野はプロ入りの壁と戦っていた。
東海大相模高時代は夏の甲子園準優勝、明大では28二塁打のリーグ記録を樹立するなど、エリート街道を歩みながら3年前のドラフトでは指名漏れの憂き目にあう。当時、日本ハムに1位指名された僚友の上原健太らが喜びを爆発させる横で涙にくれた。
社会人・日立製作所を経てのロッテ入団は、遅れてきた夢の第一歩でもある。実戦向きの打撃と俊足攻守でアピールし、現時点では荻野貴司、角中勝也に次ぐ外野の3番手候補である。
屈辱をバネに…
オープン戦では巨人に次ぐ2位という好成績をマークしたロッテだが、実は昨年もこの時期は1位だった。この好調ぶりがペナントに直結するほど甘くはない。
特に長らく課題となっている大砲不在は深刻で、このオープン戦もチーム本塁打3本は12球団最少の数字。「外国人選手の不振は頭が痛いが、それだけにうちはコツコツと得点を重ねていくしかない」と語る指揮官にとって、両ルーキーは秘蔵っ子に近い存在になりつつある。
25日の中日戦でも、1試合で合計6個の盗塁を記録。指揮官が強打に加えて盗塁王に輝いたキャリアも持っているように、少ない安打でも効率的に得点を重ねるための“走塁改革”は、上位浮上に向けた大きな武器となるかも知れない。
親会社のロッテでは、昨年まで実質上のオーナーだった重光昭夫が韓国での収賄事件などで退任。エースの涌井秀章も昨年オフにはメジャー挑戦を表明しながら獲得球団はなく、“出戻り”の憂き目にあった。
どれもこれも、屈辱からの再出発である。だが、こんな時だからこそフレッシュな指揮官とルーキーたちにかかる期待は大きい。再び、ロッテの下剋上なるか?間もなく開幕のゴングが鳴る。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)