コラム

野球界にもやってきたハイブリッドの時代

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昨年11月には侍ジャパンにも招集されたオコエ瑠偉(楽天)

ハイブリッド化する日本野球界


 いま勢いに乗っている日本人アスリートといえば、女子テニスの大坂なおみではないだろうか。3月18日、BNPパリバオープンでツアー初優勝を飾ったと思えば、その翌週には「女王」セリーナ・ウィリアムズから金星を挙げるなど、まさに“時の人”となっていた。その彼女の魅力は、若々しさあふれるそのプレーだけでない。純粋無垢なスピーチもまた、世界中のファンの心をわしづかみにした。

 そのぎこちないスピーチに使用されるのは、流暢な英語だ。ハイチ系米国人の父と、日本人の母と間に生まれ、フロリダで育った彼女の日本語はたどたどしい。しかし、地球規模の人の往来が爆発的に増えた現在、このようなハイブリッドなアスリートは珍しくない。

 それはプロ野球界も同じだ。かつて「純血」が尊ばれる中、「助っ人ガイジン」が必要悪のようにとらえられ、かつて植民地だった地域にルーツをもつ選手たちが、それを揶揄されたり、自らの出自を隠さねばならない時代を日本球界は経験してきた。

 残念ながら、その「カラー・バリア」ならぬ「ネーション(民族)・バリア」は、今もってなお完全には消滅していない。そのような事情から、外国にルーツのある選手を正確に数えることはここではやめておく。しかし、国際化が進む日本の中で、野球界にも外国にルーツをもつ選手が増え、彼らの存在感が増していることは事実だ。


素材ピカイチ!「アフリカン・ジャパニーズ」たち 


 野球に限らず、瞬発系のスポーツにおいて、西アフリカ系諸民族はその力をいかんなく発揮している。先日、サッカー日本代表を苦しめたマリもこの地域だ。

 南北格差による環境の未整備から、ガーナ、コートジボアールなど、この地域の国々が国際大会で目立つことは多くない。しかし、地域の大国、ナイジェリア、カメルーンなどはサッカーの強豪と言っていいし、この地域にルーツを持つ人々が多いジャマイカは、陸上大国だ。

 また、主としてこの地域にルーツをもつ人々が多い米国のアフリカン・アメリカンたちは現在、バスケットボール、アメリカンフットボール界を席巻している。異論はあるものの、アスリートとしての彼らの「人種的優越」は、動かしがたい事実だろう。

 プロ野球の世界で、この地域にルーツのあるのは、ナイジェリア人の父をもつオコエ瑠偉(楽天)とギニア人の父をもつ宗佑磨(オリックス)だ。

 2年前、高卒ドラ1で楽天に入団し、ルーキーイヤーから51試合に出場したオコエは、1年目のキャンプ時から際立っていた。その見事な体躯は、外国人選手と比べてもひけをとることはなかった。昨年は少々伸び悩みの感もあったが、その恵まれた身体能力を生かし、今年こそはブレークしてほしい。

 一方の宗は今まさに売り出し中。歳はオコエより1つ上になる。高卒の野手でありながらドラフト2位で指名を受けるなど、素材は一級品とみなされていた。かつてのメジャーリーガー田口壮二軍監督がつけていた背番号6を与えられたことに、球団の期待は現れている。

 これまでの3年で一軍出場は13試合だったが、今春のキャンプで遊撃から外野へコンバートされると、打撃が開眼。遊撃から外野へという田口監督と同じ道を歩み、開幕スタメンを勝ち取った。

 そのほかにも、アフリカ系の地を引く選手としては、オコエと同じくナイジェリア人の父をもつ広島の2年目右腕、アドゥワ誠がいる。彼もまた高卒でドラフトされており、その素材の良さを評価された。また、ヤクルトの3年目、沖縄生まれの左腕、日隈ジュリアスもアフリカン・アメリカンの父をもつ。


イケメンぞろいの欧米系


 日本人の欧米志向は今に始まったことではないが、今や芸能界でも欧米系とのハーフは男女問わずファンの心をときめかせている。野球界もそのご多分に漏れず、イケメンぞろいの欧米系とのハーフ選手は女性ファンを球場に引き寄せている。

 その筆頭は乙坂智(DeNA)か。昨シーズンのクライマックスシリーズでのホームランで一躍「全国区デビュー」を果たしたが、昨オフはメキシコのウィンターリーグに参戦。今季は盤石な外野陣になんとか割って入ろうとポジションを狙っている。愛称の「ニコ」はイングリッシュネームの「ニコラス」から。米国人の父をもつその端正なマスクに女性ファンも多い。

広島の右腕、久里亜蓮も米国人を父にもつ。妹はモデルということからもわかるように、本人もイケメンだ。外見だけでなく、実力も十分で、今シーズンこそはローテーションを守り二桁勝利を狙う。

 彼らの他、今シーズン育成3巡目でソフトバンク入りした砂川リチャードも米国人とのハーフだ。父親譲りの見事な体格を生かして早期の支配下登録を目指す。育成選手では、中日に2巡目指名されて入団した石田健人マルクは、ベルギー人の父をもち、スペインで生まれたという変わり種だ。

 話を戻すと、ケムナ誠投手(広島)も米国人とのハーフ。彼自身ハワイ生まれということからもわかるように、彼は日系ハワイアンの父と日本人の母の間に生まれている。


ブラジルからやってきた侍たち


 日系人と言えば、2013年WBCで初出場ながら侍ジャパンを苦しめたブラジルを外すことはできないだろう。今年は、日本からこの国への移民事業が始まって110周年に当たる。見知らぬ土地にあって野球は日系人にとって自らのアイデンティティを感じる重要なツールとして機能し、この国の野球の伝統を支えてきた。

 現在広島に在籍する仲尾次オスカルは、日系人の町、サンパウロで野球を覚え、社会人野球の名門HONDAでプレーしていたときWBC代表メンバーの一人として侍ジャパンと相まみえている。両親とも日系人という彼の風貌は、日本人となんら変るところはないが、日本語よりブラジルの公用語、ポルトガル語の方が堪能らしい。

 祖母が日系人だったというルシアノ・フェルナンドは仲尾次とは対照的だ。その風貌は、乙坂同様この冬参加したメキシコのウィンターリーグにすっかり溶け込んでいたが、5歳から日本に住んでいるとあって、母語・ポルトガル語以上に日本語が堪能である。メキシコには、今シーズンが最後という覚悟で渡ったというフェルナンド。その打力を一軍で披露してほしいものだ。

 そして、今年もブラジル日系人選手が、新たにプロ野球界に挑戦してきている。昨年ドラフトでオリックスから育成4位で指名されたフェリペは、セカンドベースへの送球到達タイムが1.8秒という強肩が自慢の捕手だ。ブラジル人の父をもち、日本人の母をもつ日本生まれの彼は、ブラジルの土を踏んだことはなく、ポルトガル語も片言しか話せないと言う。

 こうやって、ハイブリッドな時代を象徴するような選手を紹介してきたが、彼らにとって、というよりもアスリートにとって出自や話す言語は、大きな問題ではない。野球という共通「言語」を介して、彼らは、さらなる高みを目指して今シーズンも懸命にプレーする。彼らの活躍が、いまだ社会に一部残る出自や肌の色、民族へこだわりを吹き飛ばしてしまうような、そんなスポーツシーンを今シーズンは見たいものだ。


文=阿佐智(あさ・さとし)
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