白球つれづれ2018~第7回・黄金ルーキーの現在
日本ハム監督・栗山英樹は「神様」というフレーズをよく使う。例えば開幕の西武戦に3連敗の最悪スタートも、続く楽天戦に3連勝で五分の星に戻した直後。3カード目となるロッテ戦を前に「我々に神様が“しっかり戦え”ともう一度チャンスを与えてくれたと思う」といった具合だ。
神様で例えるなら清宮幸太郎の場合は「神が与えた試練」というべきか。
今月10日、メットライフドームでのイースタンリーグ・西武戦。ようやく公式戦デビューの舞台に立った。二軍戦とは言え、報道陣はテレビ、新聞などほぼ全社が駆けつけた。黄金ルーキーの復調ぶりに熱い視線が注がれた。
この夜は、体調も考慮して1打席限定、5番・DHでの出場。出番は2回一死からやってきた。西武の3年目右腕・南川忠亮との対決は2-2からのフォークに空振り三振に終わった。それでも清宮の表情に暗さはない。「試合で打席に立ててうれしかった。これからだと思う」と前を向いた。
キャンプから神様に見放されたように不運が続いた。1月の新人合同自主トレではダンベルを右手親指にぶつけて打撲。2月の沖縄キャンプ中に急性胃腸炎にかかりダウン。さらにオープン戦に入った3月12日に再び胃痛を訴えて都内の病院に緊急入院。検査の結果「限局性腹膜炎」と診断される。本格的にリハビリを開始したのは開幕直前の同月25日になってから。これにはギリギリまで開幕一軍デビューの可能性を探っていた栗山もその夢を断念せざるを得なかった。
神様の試練の先に
二軍での清宮の姿を追ってみた。いきなり、目についたのがスローイングの矯正だ。もともと投げる際に肘から先に出る投球が出来ず、アーム式の悪癖があり修正に取り組んできたが、まだしっくりいかない様子。一塁についた守備練習でも、体調が万全でないせいもあるのだろうが、何度かポロポロ。はっきり言ってこの辺りはまだアマチュアレベルである。
ところが、打撃練習になると黄金ルーキーの片鱗がのぞく。打撃投手の投じる100~120キロの半速球とはいえバットの芯でとらえた打球はスタンドの上段近くへ。高校通算111本塁打、ドラフトでは7球団が競合した実績は伊達ではない。しかし、素質だけで通用しないのもプロの常識。対西武の二軍戦はその後も2試合続いたが、快音は響かず3戦で6打数無安打。続く対阪神交流戦でも三番一塁で先発出場したが、こちらも4打数ノーヒット。キャンプでの練習試合からオープン戦を含めると26打数無安打の厳しい現実が突き付けられている。
「徐々に体重移動とか、間合いの感覚はわかってきた」と清宮は前向きな姿勢を貫いているが、二軍監督で早実の大先輩でもある荒木大輔は「まだ彼本来のスウィングが出来ていない。(キャンプ中の)沖縄で見た姿でもない」と調整遅れを指摘する。
清宮には入団直後からグラウンド内外で大きな期待と十字架が課せられていた。それは「大谷ロス」の解消への起爆剤である。二刀流のスーパースターとして海を渡った大谷翔平の活躍は誇らしい。しかし、チームとしては人気者の流失はチームの戦力ダウンと観客動員での危機もはらんでいる。ここに清宮の一軍での活躍があればプラスに転じることも不可能ではない。こんな青写真があるからこそ、開幕一軍の道を模索し、現時点でも最短なら4月中の昇格デビューの可能性を探っているのだ。
「ともかく、今はがむしゃらに野球をやる時期。うちにとって大切な打者であり、必ず打つ能力はある。準備をして結果が出れば勝負出来る」と、栗山は秘蔵っ子の復活を心待ちにしている。若手育成には定評のあるチームだけに、この先どんな起用法をしていくのか興味は増す。
17日からは敵地に乗り込んでの楽天戦。初安打が出れば一発も夢ではない。さて、神は清宮にどんな次なるステージを用意しているのだろうか?
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)