白球つれづれ2018~第8回・ラミレス采配
開幕からまもなく1カ月。セ・リーグは首位を行くDeNAから下位に沈む巨人、中日、ヤクルト(同率4位、23日現在)までが、わずかに3ゲーム差。史上まれに見る混戦の予感がする。そんな状況にあって采配面ではDeNAの監督であるA・ラミレスが光っている。スポーツ紙が好んで使う“ラミちゃんマジック”の背景に迫ってみる。
開幕直前のチーム状況は最悪に近いものだった。昨年2ケタ勝利を挙げた今永昇太、浜口遥大にJ・ウィーランドの先発三本柱を揃って故障で欠く苦しい船出。ここにきてようやくウィーランドと今永が戦列に復帰するものの、この大ピンチをラミレスは大胆な若手起用で勝負に出る。
昨年のドラフト1位左腕の東克樹に2年目の19歳・京山将弥から高卒4年目の飯塚悟史らが先発に名を連ね白星を積み上げていく。4月中旬の巨人戦ではプロ4年間、中継ぎ専門で未勝利の平田真吾を奇襲?先発。苦しい台所事情があったとはいえ、指揮官のブレない信念がピンチをチャンスに変える好発進に結びついた。
この場合、日本人監督ならどうだろう?普通なら、過去に先発実績のある投手を代役に立てる。チームには昨年まで先発ローテーションで活躍した井納翔一がいるが、今季はセットアッパーとしての起用を決めている。逆に京山や飯塚の場合は昨年からファームで英才教育を施していた成長株。ラミレスは従来の価値観にとらわれず若手を起爆剤にすることで活路を開いた。
したたかな指揮官
ファンを大切にして、いつも笑顔を絶やさないラミちゃんだが、知る人ぞ知る「データ魔」でもある。試合開始前には、必ずと言っていいほど監督室にこもって10ページを超すデータの分析に余念がない。
「私の試合への準備の仕方は他の監督とは違う。自分がしっかり調べて準備したことへは強いこだわりがある」。これは、ある雑誌のインタビューに答えたラミレスの言葉だ。自チームの現状から相手の分析はもちろんのこと、この打者には誰をぶつければ有効か?ピンチの場面ではどんな継投をしていくか?まで周到なシミュレーションを繰り返して試合に臨む。
今季も不動の一番打者と語っていた桑原将志が不振と見るや、早々にルーキーの神里和毅を抜擢。昨年から続けている8番の打順に投手を充てて9番に倉本寿彦を起用するのもデータに基づいたもの。なかなかにしたたかな指揮官でもある。
では、このラミレス流の監督像はどうやって出来上がったのだろうか?
「よく野球を勉強している。心は日本人だね」。かつて、取材にやってきた野球評論家の鈴木啓示が感心していたことがある。現役時代は近鉄のエースとして300勝以上をマークした元大投手の目にも勉強家の一面が印象として残った。
過去2年の経験を糧に
ヤクルトの助っ人として来日したのは17年前、その後、巨人、DeNAなどを渡り歩いた。現役時代は外国人選手として初の2000本安打を記録した名球会のメンバーでもある。首位打者、本塁打王、打点王など輝かしい実績は素質だけで生まれたものではない。日本野球とどうアジャストしていくか?投手の配球パターンは?辛抱と研究の成果が日本での成功につながっている。
現役時代は「ゲッツ」や「ラミちゃん、ペッ!」と言ったパフォーマンスでも愛されたが、今ではデータを駆使した頭脳野球と実績にとらわれない大胆な用兵でセ・リーグを牽引する。チーム打率.237はリーグ5位とまだまだ不満足ながらチーム防御率2.91は断トツのトップ。20年ぶりのリーグ制覇に向けては好位置と言えるだろう。
「去年までの2年間で選手もやれるんだ、という自信をつけましたし、みんなが優勝の可能性を信じることが出来ている」
ちなみに、外国人監督の優勝の歴史を見ていくとパ・リーグではB・バレンタイン(ロッテ)とT・ヒルマン(日本ハム)の2人がいるが、セ・リーグではゼロ。かつての不人気球団から、いまやファンの熱気も最高潮、「ラミちゃんマジック」が秋まで続いていくのか?当分の間はこの指揮官が主役の座におさまっているはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)