DeNAのエース候補生として…
TBSからDeNAへ球団が譲渡され、迎えた2012年のドラフト会議。法政大学のエースとして活躍した三嶋一輝は、東京六大学の「ベストナイン」と「投手三冠(防御率、勝利数、奪三振数)」という実績を引っ下げ、ドラフト2位でDeNAベイスターズに入団した。
ルーキーイヤーの2013年は、5月から先発ローテーション入りし、オールスターにも選出されるなど活躍。最終的には6つの勝ち星を積み上げた。強気のピッチングを魅せる若き右腕は、長年エースとして君臨していた三浦大輔から、その座を奪う一番手になりうる存在となった。
すると翌年は、中畑監督から開幕投手に指名される。大役を任されたが、オープン戦から調子の上がらない三嶋は、神宮で迎えた開幕戦でヤクルト相手に初回7失点の大炎上。ここから歯車が狂い始める。2015年に5勝を挙げたものの、2016年は先発で1勝、2017年はリリーバーとして登板し、防御率は6.53と厳しい数字が続いた。
本人も「何か感覚が違う」と、違和感を覚えていた。
オフの取り組みと復活の兆し
昨年のシーズンオフ、どうすれば輝きを取り戻せるのか、感覚の違いは何なのか、自分を見つめ直した。たどり着いた答えは“身体の使い方”。プロのピッチャーとしては、決して大きくない176センチの体躯と向き合った。
まずは下半身を苛め抜いた。10キロ走を繰り返し、疲れきった状態だからこそ気付く筋肉の使い方を感じとることができた。また、年齢を重ねるにつれ、筋力も身体の柔らかさも変わっているはずと考え、ピラティスにも挑戦した。正しいストレッチ、バランスを強化することで、理想的な姿勢や動作を学んだ。
オフのトレーニングの成果は、如実に表れる。柔らかくなった身体としなる右腕。オープン戦でも結果を残し、開幕から一軍に名を連ねた。
開幕してからも好調を持続し、武器であるストレートはトラックマンの測定で「154キロ」を記録。これまでも投げていたフォークは、同期でもある井納翔一のアドバイスを受け、キレを増した。
4月21日のヤクルト戦、先発のバリオスが3回でマウンドを降りると、3点を追う4回から登板。145キロ超のストレートに、スライダー、カーブを織り交ぜ、3回を無失点に抑えて試合を立て直した。特に、山田哲人とバレンティンから、ストレートで三振を奪った場面は圧巻だった。結局、チームは延長の末に逆転勝ち。ラミレス監督からも「勝利のキーマン」と絶賛された。
任されたポジションで
三嶋は今年から、自身の登場曲をアメリカ最大のプロレス団体、WWEの悪役レスラー、“ストーンコールド”スティーブ・オースティンのテーマに変更している。理由を問うと「ヒール(悪役)でいいから」と笑うが、「今年は自分らしく、思い切りやりたい」と語る目標が、悪役レスラーとして、好き勝手に暴れ回るストーンコールドと、不思議と重なり合う。そして、小柄ながらも“強気で押す”本来のスタイルを貫きたい!そんな決意が表れているようにも感じられた。
現在ベイスターズのリリーフ陣は、若い先発陣を早い回(100球前後)で降ろすため、フル回転を強いられている。長いペナントレースを考えると、彼らバックアップ要員の存在は重要だ。三嶋は「いつでもどこでも、チームに貢献したい」と真剣に語る。
彼の現在地はまさしくここにある。ただ、大洋時代からのエース背番号である「17番」を背負う小柄な右腕がかつての輝きを取り戻したとき、“元エース候補”が再び「エース候補」と呼ばれる日がくるかもしれない。まだ27歳。三嶋一輝のポテンシャルを、信じているファンは少なくないはずだ。
【年度別成績】※4/26終了時点
13年:34試合(6勝9敗1H)防御率3.94
14年: 8試合(1勝2敗)防御率10.88
15年:20試合(5勝5敗)防御率4.81
16年: 4試合(1勝1敗)防御率3.75
17年:16試合(0勝1敗)防御率6.53
18年: 6試合(1勝0敗)防御率1.59
取材・文 =萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)