コラム 2018.05.14. 17:00

激動の2004年…松中信彦「平成唯一の三冠王」を振り返る【平成死亡遊戯】

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2004年9月、史上7人目の三冠王になり、笑顔を見せるダイエー・松中(C)KYODO NEWS IMAGES

平成唯一の偉業


 球界には平成30年間で一度しか達成されていないレアな大記録がいくつかある。

 その代表的なものが完全試合であり、三冠王だ。1994年5月18日、巨人の槙原寛己が広島戦(福岡ドーム)で平成最初にして現在まで唯一の完全試合達成。そして、三冠王は2004年シーズンに当時ダイエーホークスの松中信彦が平成でただひとり獲得している。

 今季は山川穂高(西武)が開幕から凄まじいペースで打ちまくり、本塁打と打点ではトップを独走。それでも、打率はリーグ6位(14日現在)だ。13年にNPB初の60本塁打を達成したバレンティンでさえ、打率.330と131打点はリーグ2位だった。その難易度の高さに、この30年間でたったひとりしか達成していないのも頷ける。


「球界再編問題」に揺れた球界


 今回は04年シーズンの松中の三冠王への軌跡を振り返ってみよう。NPB公式サイトやネットには詳細データがない年間を通した打撃タイトル争いを追うため、図書館で14年前のスポーツ新聞(今回は日刊スポーツを使用)を確認してみることにした。

 当時の松中はプロ8年目30歳、ギラギラの男盛り。開幕戦こそ3打数3三振だったが、直後の西武戦で自身初の3試合連発を記録し、チームも5試合目に単独首位に立つ。同日にはヤクルトのアレックス・ラミレスが“新ネタ”の「ラミちゃんペッ」を披露。さらに開幕シリーズの視聴率低迷を聞かれた巨人・堀内恒夫新監督が「俺にどうしろというんだ」と報道陣を一喝。

 そんな時代を感じさせる平成16年春の球界事情だが、4月6日の開幕10試合経過時点での松中の成績は「打率.361(8位)・4本(2位)・8点(4位タイ)」と各部門で上位につけていたものの、まだ三冠王と騒ぐ声は皆無だ。

 この年、春先に暴れたのが日本ハムのフェルナンド・セギノール。大型連休突入の4月29日の時点で打率.457と首位打者争いを独走していた。それが5月31日には、1位セギノールの率.390に対し、2位松中が率.385で猛追。同日、ダイエー打線(“ダイハード打線”という名称はそれほど浸透しておらず、“スーパー打線”というかなりダサいネーミングも登場)はオリックス戦で5発・21安打の18得点と爆勝。平成最強の打てる捕手・城島健司が満塁弾を含む2発で3安打6打点とリーグトップの52打点まで伸ばした。

 ちなみに、その日球審に「へたくそ」と暴言を吐いてプロ13年目・1330試合にしてプロ初の退場を食らったのが近鉄の主砲・中村紀洋。「仏のノリさん、キレたって書いといてください」なんて報道陣にアピールするいてまえスラッガーは相変わらず自由である。


 松中は自チームのライバル城島を追いつつ、6月8日の日本ハム戦でセギノールを逆転。リーグ首位打者に躍り出るが、直後の13日にヴィッセル神戸のイルハン・マンスズが再び故障離脱…じゃなくて、オリックスと近鉄の合併構想が表面化するわけだ。

 そんな中、6月30日のオリックス戦で城島が1試合3本塁打をマークし、30号に王手。29発・75打点(松中と13点差)はリーグトップ。打率.355も松中に次いで2位キープと、捕手としては野村克也以来の三冠王が現実味を帯びてくる。

 しかし、この頃からメディアはペナントより球界再編問題を大きく取り上げるようになる。6月30日の紙面には「ライブドア近鉄買収表明」の見出しと、まだホリエモンと呼ばれる前の堀江貴文氏が31歳の若きIT事業家として登場。古田敦也選手会長vsオリックス・宮内義彦オーナーはバトルを繰り広げ、7月9日、ついにあの巨人・渡辺恒雄オーナーの「無礼な、たかが選手が!」という球史に残るパワーワードが一面を飾る。

 この前日にペナントの前半戦もひっそりと終了していたが、松中は「打率.355(1位)・26本(3位)・66点(5位)」で折り返す。なお、首位打者争いでは日本ハムの小笠原道大が打率.353と2厘差で松中に迫っていた。


三冠王決定も“2面でひっそり”…?


 7月、松中は6試合連続アーチもあって21日には打撃三部門でトップに立つが、直後にガッツ小笠原に打率を逆転され、打点は城島に追いつかれる。

 しかし、8月になるとライバルたちがアテネ五輪の野球日本代表に招集され、一時ペナントから離脱。その間、背番号3は打点王争いでトップを独走。セギノールと本塁打王争いを繰り広げるが、球界再編問題は混迷を極め、“一場事件”で巨人、阪神、横浜のオーナーが辞任。8月31日の一面は「東京地裁がオリックスと近鉄の合併に待った」で、6面にようやく「ダイエー プレーオフ1位通過M14点灯」の見出しが確認できる。

 夏の終わり、松中は打率.355で打率.362の小笠原に再び引き離されてしまう。もはやペナントの勝敗どころではない球界だが、9月8日には「ダイエー・ロッテのもう一つの合併が進行中」が報じられるも、臨時オーナー会議で失敗が明らかとなり、その頃はどこの球場でも戦う選手会長・古田が打席に立つと大きな拍手が送られるようになった。

 苦渋のストライキ決行か、回避かで揺れる9月11日。松中は近鉄戦でセギノールに並ぶ42号を含む3安打をマークすると、打率.355で2位の小笠原をわずか1厘差でリード。ついにペナント終盤、7月24日以来の打撃3部門トップに立つ。

 …が、9月18・19日にプロ野球史上初のスト決行。この04年シーズンは、海の向こうでシアトル・マリナーズのイチローがメジャー最多安打記録257本の更新に挑んでいたが、各紙面を今になって見てみると、球界再編とアテネ五輪に押されてリアルタイムのイチローの扱いは驚くほど小さい。

 6月中旬からの球史に残る激動の3か月が過ぎ去り、一面で「オリ近鉄134選手 2球団に分配 来季も12球団」と報じられた9月24日、前日に松中は「打率.358・44本・120打点」の “暫定三冠王”で全日程を終えたことがベタ記事で触れられている。ストで中止の試合が行われず、セギノールが残り1戦で本塁打を打たなければ18年ぶり史上7人目の三冠王という説明付きだ。

 27日、パ・リーグは全日程を終了。翌日の一面はもちろん松中…と思いきや、オリックスとの最終戦を終えた中村ノリさんの怒り「メジャー公言 最後の爆弾要求 社長よ謝れ!」、3面には大阪近鉄バファローズ最後の一戦で指揮を執った梨田昌孝監督による独占手記のさよなら近鉄ネタに挟まれ、2面でひっそりと「代替試合なし パ04年シーズン終了 松中 晴れて三冠王」が報じられた。

 記事内では、中日・落合博満監督から「これで18年ぶりにオレの三冠王も日の目を見るな(笑)。簡単に三冠王って言うけど、3つ獲るのはそれだけ難しいってこと。実力もそうだけど、運も必要なんだ」というオレ流の祝福コメントも寄せられている。

 なお、チームはシーズン1位も、この年から導入されたプレーオフで西武に敗れ、秋にはダイエーが自主再建を断念。ホークスもソフトバンクに買収され、“ダイハード打線”は姿を消した。

 球界再編の喧噪の中で、ひっそりと達成された松中信彦の平成唯一の偉業。全盛期は「打撃を極めた」境地にまで達していた男は、06年から7年総額45億円(出来高含む)の大型契約を結ぶも、晩年は故障に苦しみ15年限りで退団。16年春には現役引退を表明した。

 我々が次に三冠王を見られるのはいつになるのだろうか?


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)



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