白球つれづれ2018~第12回・お金と強さのバランス
5月に入って、野球界では毎年恒例となる調査報告が行われた。ひとつは年俸調査で、もうひとつは各球団の観客動員数と前年比である。金満球団が必ずしも強いわけでなく、各チームの球団経営に対する理念や工夫が垣間見える点でも興味深い。
まずは15日に日本プロ野球選手会から発表された年俸調査。今季開幕時の支配下登録選手を対象とした報告だが、外国人選手は除いてある。結果は次の通り。
【年俸調査結果】<平均/総額>
2.巨 人 :6380万/38億9195万
3.阪 神 :4100万/25億85万
4.楽 天 :3746万/22億4746万
5.オリックス :3610万/22億206万
6.広 島 :3432万/20億9348万
7.西 武 :3402万/20億7536万
8.DeNA :3232万/19億7144万
9.中 日 :3218万/19億6275万
10.ヤクルト :3143万/19億4896万
11.ロッテ :3083万/18億8058万
12.日本ハム :2381万/15億2388万
“最下位”日本ハムの凄さ
前年日本一のソフトバンクは3年連続トップ。セ・リーグ覇者の広島は前年の11位から6位、大躍進のDeNAは同12位から8位へとジャンプアップ。このあたりは選手の働きがそのまま年棒増へと反映された形だが、一方で目を引いたのは日本ハム。前年の5位から12位へと転落、しかも年俸総額を見ると同11位のロッテよりさらに3億5000万円以上低く、大幅なコストカットが図られたことが伺える。
日本ハムでは昨オフにスーパースターの大谷翔平がメジャーのエンゼルスに移籍。さらに抑えのエース・増井浩俊がオリックスにFA移籍、昨シーズン中には中継ぎの谷元圭介も中日にトレードと1億、2億の高年俸投手が揃って退団している。驚くべきことに、中田翔のFA移籍まで認める方向だったという。中田の昨年の年俸は2億8000万円で球団の日本人選手ではトップだったが、仮にFAが実現していれば、球団の懐事情はさらに潤沢になっていたはずだ。
ドラフトでは、常にその年のナンバーワン選手を指名して、昨年は清宮幸太郎の争奪戦を制した。その反面、ダルビッシュ有や大谷など、メジャーを目指す選手には門戸を広げ、高額年俸の選手は惜し気なく放出も辞さない。それでいて、この10年で3度のリーグ優勝と1度の日本一だから、球団の育成と経営ビジョンがいかに確立されているかがわかる。
絶大なる松坂効果
もうひとつの今年度各球団の観客動員数と前年比の調査結果は今月7日に発表された。この時点で特徴的だったのは中日、西武、ロッテの前年比の大幅増だ。西武は開幕からの快進撃や東京ドームでの主催試合もあり前年比21.8%。新監督に井口資仁を迎えたロッテは最下位に沈んだ前年の落ち込みをカバーする同13.2%の伸び。では中日の同18.3%増は何を意味するのか?これは間違いなく松坂大輔効果である。
1試合平均3万427人の観客動員を記録するナゴヤドームは、松坂の登板日にはさらに熱気も上昇。20日の阪神戦では投げて2勝目、打っても自身初のマルチ安打を記録してまさに松坂デー。破格の低年俸1500万円は「キャンプのグッズ売り上げだけで3000万、もうとっくにモトは取ったね」と某球団関係者はうそぶく。マウンドだけでなく、勝者のマインドを持つ松坂がチームに及ぼすプラス効果を指摘する者もいる。5年連続でBクラスに沈むチームも今季は今のところ上位をうかがう勢いだ。
低年俸でも現在2位と健闘する日本ハムに、4位ながら松坂効果でチームも球場にも活気の戻ってきた中日、こちらも年俸ランク9位とあればコストパフォーマンスでは共に優等生。さて、金満球団と言われるソフトバンクと巨人が選手層の厚さを生かして巻き返すのか? はたまた、コスパに優れたチームが栄光のゴールにたどり着けるか?そんな側面から野球を楽しむのはいかがだろうか。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)