今季も多くの本塁打が飛び交うMLB
昨季、アメリカ球界を席巻したのが『フライボール革命』というキーワード。専門家の研究により「ゴロよりもフライの方が安打になりやすい」ということが立証され、「バレルゾーン」と呼ばれる好結果になる打球速度と角度が広まったことで、本塁打の数が飛躍的に増加。メジャー史上最多となるシーズン6105本もの本塁打が飛び交う歴史的な1年になった。
今季も昨年には及ばないものの、現地11日時点でシーズン5506本塁打ペース。これは史上5番目にあたる数で、今年も本塁打が多く乱れ飛ぶシーズンとなっている。
しかし、実はその一方で投手戦も増えている。9イニング当たりの得点数は昨季の4.70から4.38に減少。投手側の対策が進んだことや、フライボール革命の“副作用”と言うべきか、一発狙いの打者が追い込まれても大振りするケースが目立ち三振を喫するシーンが例年以上に目立つ。
その結果、今季のメジャー全体の打率は.245。昨季の.255と比べると1分も下がっている。本塁打や得点が極端に少なかった、いわゆる『デッドボール時代』が終わった1919年以降の約100年を見ても、今季のリーグ全体の打率というのは4番目に低い数字となっている。
打率1割台での本塁打王も現実味!?
打者の個人成績を見ても、今季は打率1割台にあえぐ選手が多い。現在のところ159人が規定打席数を満たしているが、このうち10人が打率1割台だ。
1919年から2017年の間で、シーズン打率が1割台だったのは僅かに13人(規定打席到達者)。シーズン半ばとはいえ、現時点で10人というのは、明らかに多い。打率1割台の10人の中でも最も低いのが、クリス・デービス(オリオールズ)で.150である。デービスは、開幕から一度も打率2割に達していないが、チームの65試合中57試合に出場するレギュラー選手だ。
1919年以降のシーズンワースト打率は.179。この記録を保持しているのは、阪神にも在籍したロブ・ディアー(タイガース/1991年)とダン・アグラ(ブレーブス/2013年)の2人。奇しくも全く同じ448打数80安打で、その打率をたたき出している。
低打率の2人が起用され続けたのは、ともに20本を超える本塁打を記録したこと。そして出塁率が3割を超えていたことが大きい。現在4本塁打・出塁率.227のデービスは“不名誉な記録”を塗り替えてしまうのだろうか。
注目したい選手がもう一人いる。レンジャーズのジョーイ・ガロは現在、打率.202と辛うじて2割台を維持している。一方で本塁打数はチーム最多の17本を放ち、ア・リーグで6位タイにつけている。トップのJ.D.マルティネス(レッドソックス)との差は僅かに4本。もし打率1割台で本塁打王に輝けば、メジャー史上初である。
過去には、1982年にメッツのデーブ・キングマンが打率.204ながら、37本塁打でその年のナ・リーグのホームランキングに輝いた。ガロはこれを破ることができるだろうか。決して名誉とはいえない“低打率”の記録ではあるが、注目する価値はあるだろう。
文=八木遊(やぎ・ゆう)