苦境に立たされたチームのなかで
故障者の続出により、ベイスターズが苦境に立たされている。
まず6月4日、開幕から好調を維持してきたロペスが右太もも痛のため登録抹消。7日には梶谷隆幸が腰痛、さらに13日にはソトが発熱による体調不良を訴え、相次いで登録を抹消された。強力な上位打線を形成してきた3人の離脱は、チームにとって大きな痛手だ。
こうした状況下でも得点能力を維持するためには、残る主軸打者・筒香嘉智と宮崎敏郎の4・5番コンビの前に、どれだけ走者を置くことができるかが重要になってくる。
そこで注目したいのが、ドラフト2位ルーキーの神里和毅だ。
梶谷の離脱を受けて「2番・ライト」でスタメンに入り、12日のマリーンズ戦からは桑原将志と打順を入れ替え、リードオフマンを託されている。その間の7試合(6月7~14日)で27打数11安打の打率.407と、ラミレス監督の期待に応える結果を残してきた。
スタメン落ちを糧に…
新人ながら開幕スタメン入りを勝ち取った神里は、持ち味の脚力を生かして積極果敢に盗塁を重ねるなど、シーズンの序盤戦で自らの存在を強くアピールすることに成功する。
しかし、打席を重ねるごとに成績は下降。4月の月間成績は打率.232にとどまり、27個もの三振を記録した。特に、スピードのある直球に振り遅れるケースが目立つようになっていた。
故障で出遅れていたソトと梶谷が一軍に合流してきたこともあって、神里は5月16日から29日までスタメン落ちが続く。そして、この2週間が自身を見つめ直す貴重な時間となった。
「試合に出ていない時は、練習がたくさんできる。その間にいろいろ考えながら取り組んできました。タイミングを早く取るだとか、(構えの時に)力を抜くとか、いろいろと試してきたことがいい結果につながっているのかなと思います」
神里が復調の手ごたえをそう語ったのは、6月9日のファイターズ戦が終わった後のことだ。この試合、4打数4安打の活躍でヒーローとなった24歳は、苦しめられてきた速球についてこう語っていた。
「いまはタイミングを早く取って、構えの時は上半身の力を抜き、インパクトの瞬間にだけ力を入れるようにしています。しっかりトップがつくれるんです。(それによって)まっすぐも、前までは『速い』と思っていたんですけど、そこまで感じなくなりました」
神里は「相手も研究してくる。苦手なところ、苦手な球種を投げてくる」とも話していたが、この発言の念頭にあったのは、手元まで押し込まれ対応に苦慮してきた直球であったに違いない。
指揮官も絶賛する走力
苦手をひとつ克服したことで、6月はここまで打率.375のハイアベレージを刻み、シーズン通算でも.280と見栄えのする数字に戻ってきた。雨の中で行われた6月10日のゲームでは、逆方向となるレフトスタンドに第4号ホームランを放り込み、技術と力強さを兼ね備えていることも示した。
さらに成長が顕著に見て取れるのが、三振の割合だ。4月は82打数で27三振(32.9%)だったものが、6月は40打数7三振(17.5%)にまで大幅に減少した。「力んでいないぶん、しっかり捉えきれている」と語るように、“リラックス打法”の効果がてきめんに出ているようだ。
4安打を放った6月9日のファイターズ戦では、神里ならではの好走塁も光った。
同点で迎えた5回裏、二死二・三塁の場面。ここで筒香の打球は内野安打となったが、二塁手がボールをファンブルする。その間に、二塁走者だった神里は迷わず三塁を蹴っていっきにホームインを果たしたのだ。ラミレス監督も「彼以外だったらアウトだったのではないか。相手のミスを突く、本当にいい走塁だった」と絶賛していた。
初回には二盗も成功させており、今シーズンの盗塁数はリーグ2位の13個に到達。もともと「シーズン20盗塁」を目標に掲げていたが、開幕直前に催された壮行会でラミレス監督が「30盗塁できる」と発言したことを受け、その場で目標を“上方修正”した経緯がある。
現在のペースでいけば、シーズン33盗塁に達する計算になる。どこまで盗塁数を積み上げてくれるのか、打撃の進化とともに楽しみなところだ。
1番打者を任されることについては、「(試合で)最初に打席に立つ自分の姿勢でチームの勢いが変わってくるので、そこは意識していきたい」。積極的にバットを振りながらも、ボール球は見極め、四球も稼ぐ。現在.343の出塁率をどれだけ高められるかが今後の課題になってくるだろう。
プロ野球というステージで、自らの居場所を確保するために。故障者が相次ぎ、厳しい戦いを強いられるチームを救うために。沖縄出身の快足ルーキーは暑い夏も成長の階段を昇り続ける。
※成績はすべて6月14日終了時点