先発の柱から抑えへ
セ・パ交流戦も終盤へ差し掛かったところ、日本ハムの栗山英樹監督はひとつの決断を下した。「ストッパー・有原航平」――。プロ入り4年目のこれまで一度もリリーフ登板の経験がなかった男に、9回を託すことを決めた。
2014年のドラフト会議では4球団が競合した逸材。ルーキーイヤーから8勝(6敗)を挙げる活躍を見せると、2年目からは2年連続で2ケタ勝利をクリア。評判通りの力で早くから先発ローテーションに定着する。しかし、その一方で2016年は9敗(11勝)、昨季は13敗(10勝)と負けが込み、防御率も4点台~2点台~4点台と安定感に欠いた姿が目についた。
迎えたプロ4年目の今季、大谷翔平が抜けた後のチームで新エースとしての期待が高まるも、2月のキャンプで右肩痛を発症。早々に開幕絶望となってしまう。4月14日に復帰戦で勝利を挙げると、1敗を挟んでそこから3登板連続で勝利を挙げたものの、5月19日の楽天戦で7回途中5失点の敗戦。さらに5月27日の西武戦で5回8失点と2戦つづけて期待を裏切ると、二軍調整を経て戻ってきた右腕に与えられた役割は“抑え”だった。
“抑えデビュー”は6月13日の阪神戦。2点は失うもリードを守り抜いて初セーブを記録すると、そこから3試合の登板で2セーブを記録。3試合・3回で防御率9.00と決して好スタートとは言えないものの、役割変更直後の手探りな状態のなかで3試合ともチームを勝利に導いているという点は評価できる。
ローテーションの中心を担った投手による抑え転向といえば、昨季もヤクルト・小川泰弘が経験している。苦しい流れを変えるべく真中満前監督が下した苦情の決断だったが、この時は歯車が合わずに途中で断念。チームの下降を食い止める切り札とはならなかった。
一方で、成功例もある。今やメジャーへと羽ばたいていった元西武・牧田和久(現パドレス)がその一人だ。この男の場合はルーキーイヤーに先発としてデビューをしながら、1年目の途中で突如抑えに転向。それでも決して動じることなく、6月下旬からシーズン終了までに22セーブを挙げる活躍で、新人王にも輝いている。
“2016年の再現”なるか…
栗山監督といえば、常識にとらわれない発想の持ち主として知られ、“栗山マジック”と呼ばれる思い切った采配で周囲を驚かせてきた。
シーズン中の“サプライズ転向”で思い出すのが、2016年の増井浩俊(現・オリックス)だろう。今回のパターンとは逆に、不動のストッパーだった増井をシーズン途中から先発として起用。するとこれが面白いようにハマり、転向後は7勝1敗とエース級のはたらきでチームを大逆転優勝へと導く原動力となった。
思えばこの年は、一時的に先発左腕の吉川光夫(現・巨人)を抑えに据えたこともあった。増井に代わってストッパーを務めていたクリス・マーティンが負傷離脱したためであるが、吉川も転向して3セーブを記録するなど、奮闘を見せてチームの窮地を救っている。
まさに“ピンチはチャンス”――。「抑え・有原」は本人に復調のキッカケを掴ませるためのカンフル剤でもあり、うまく行けばチームに新たな柱ができる可能性まで秘めている。
いずれにせよ、優勝に向けて有原の力が不可欠だからこその措置であることは間違いない。抑えの座を不動のものにしてシーズンを終えるのか、はたまたこの経験を活かして先発に戻り、エースへと成長していくのか…。このあとの有原がどうなっていくのか、今から楽しみだ。