勝ち取ったポジション
横浜スタジアムにガラス割れる音が轟く。「三嶋~!」ファンも敏感に反応し、歓声をあげる。今やベイスターズのブルペンになくてはならない存在となった、三嶋一輝の登場だ。
ルーキーイヤーに6勝をあげエース候補と言われたが、2年目以降はパッとしない成績が続いた。しかし6年目の今年は、「中継ぎ」という役割の中で存在感を示している。
開幕時ラミレス監督は、「7回井納翔一、8回スペンサー・パットン、9回山崎康晃」を勝利の方程式として起用すると明言。その他のピッチャーは臨機応変に対応するプランだった。しかし井納は中継ぎで結果が出せず、パットンも外国人枠の問題で、一時ファーム落ちを余儀なくされるなど、方程式を解体。現在もスクランブル体制でやりくりしている。
このような状況下で、開幕当初はビハインドの場面での登板が多かった三嶋だが、ロングリリーフなどで好投を続けると、徐々に大事な場面での起用が増加。首脳陣の信頼を勝ち取り、最近はいわゆる「痺れる場面」で登板を任される存在となった。
強気で押すピッチングスタイルの三嶋は、三振を奪えるかが好不調を判断する1つのバロメーター。1試合(9イニング)あたりに奪う三振の数を示す奪三振率は、リーグトップクラスの「11.41」と、高い数字をマークしている。
▼ セ・リーグHPトップ3の奪三振率
19HP:ジャクソン(広) 8.67(27回26三振)
17HP:近藤一樹(ヤ) 9.37(32.2回34三振)
14HP:澤村拓一(巨) 8.28(29.1回27三振)
14HP:三上朋也(De) 5.74(26.2回17三振)
14HP:桑原謙太朗(神)8.00(18回16三振)
14HP:パットン(De) 12.60(20回28三振)
6月16日のオリックス戦では、0-0で迎えた延長10回に登板すると、ボテボテの内野安打で先頭打者に出塁を許したが、送りバントで一死二塁。一打サヨナラの大ピンチを迎えるも、大城とロメロを連続三振にきってとり、今季4勝目をあげた。ストレートもスライダーもキレがあり、まさに“痺れる場面”での、圧巻の投球だった。
戻ってきた感覚
数年前から本人も抱いていた「何かが違う」という違和感が、徐々に解消されてきた。
走り込みにより下半身が安定し、柔軟性の増した上半身とのバランスが改善。柔らかくしなる腕から投げ込まれるストレートの球速は、150キロ超を度々記録するようになった。それに伴い、スライダーを筆頭する変化球もキレを増している。そして、マウンドで跳ねるような躍動感溢れるフォームも戻ってきた。
抑えられている「結果」が「自信」となり、適度にリラックスできていることが、集中力の持続に繋がっている。たとえ打たれてもしっかりと反省点を見つめ直し、次の試合に生かす。ポジティブなルーティンが好調の要因だ。
「勝ちパターンであっても、負けている場面でも、マウンドに上がる以上は0点に抑える気持ちで行く」と、フラットな感情の中にも、気持ちを入れて登板する術も身につけた。
未知の領域
今季の三嶋の登板数は、交流戦終了時点で「25試合」。リリーバーとしてマウンドに上がった自身の登板数を大幅に上回っている。もちろん疲れがないはずはない。だが、「これからどうなるのか、楽しみでもある」と語るなど、自分自身に期待しているかのような、前向きな言葉は心強い。
「与えられた場面でしっかり仕事をして、とにかくチームに貢献したい」と、真剣な眼差しで語る三嶋も、ファンに向けては「頑張りますので、温かい目で見守って下さい」と、"癒し系"の笑顔をみせる。このギャップも、ファンにはたまらない。
エース番号17を背負い、マウンドで躍動する三嶋一輝。エース候補の最右翼だった男のポテンシャルが、「中継ぎ」で花開いた。今後の活躍からも目が離せない。
▼ 三嶋一輝(DeNA)の成績
・奪三振率11.41(32.1回 41三振)
・25試合:4勝0敗9HP 防御率2.23
取材・文 =萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)