白球つれづれ2018~第19回・名門球団の病巣は!?
夢の球宴、オールスターゲームまであとわずか。前半戦の折り返しを前に巨人が不祥事の続発に頭を抱えている。まさに夢も希望もない異常時だ。
7日に球団から発表された柿沢貴裕の契約解除。二軍施設のあるジャイアンツ球場から阿部慎之助、坂本勇人らのバット、菅野智之や岡本和真らのグラブなどスター選手の野球用具約110点を盗み出し、中古ブランド品買い取り専門店に売却して約100万円の利益を手にしていたという。消費者金融からの借金もあり生活に困窮した末の犯行である。柿沢は8日には窃盗容疑で逮捕されたので現時点では「柿沢容疑者」となる。
この犯行が行われていた本年の5~6月と同時期に破廉恥な行為が同じ巨人選手によって引き起こされている。こちらの騒動の主は9年目の中堅捕手・河野元貴と昨年は育成出身ながら一軍で23試合に登板、初勝利もマークした篠原慎平だ。
6月中旬に都内の飲食店に男女10人で繰り出すと、その席上で篠原が裸になり、それを河野が撮影。それを河野が自身のSNSのインスタグラムで公開したため騒ぎになった。
球団は両選手に対して今季中の出場停止に加え、本年度の参稼報酬のうち7月以降に支給予定となっている金額の20%相当の罰金を科した。この騒動にはおまけ?までついている。会食には坂本勇人も同席していたが撮影時より前に退席、それでも「シーズン中に騒ぎを起こすような飲み会に同行していたのは主将の自覚を欠く行為」として厳重注意の処分が科された。同じ日にふたつの不祥事を発表せざるを得なかったところに名門球団の病巣の深さを感じずにはいられない。
相次ぐ不祥事
近年、巨人の不祥事続発ぶりは他球団と比較にならないほどだ。
2015年に発覚した野球賭博関連事件では当時、在籍していた福田聡志、笠原将生、松本竜也の3選手が球団から契約解除の末にNPBから失格選手として事実上の追放処分を受けた。翌16年には同事件に高木京介の関与も明らかとなり、こちらはNPBから1年間の失格処分。一連の不祥事を受けて当時のオーナーだった白石興二郎、同オーナーだった桃井恒和ら球団首脳まで引責辞任に追い込まれている。
さらに17年の夏にはDeNAからFA入団したばかりの山口俊が泥酔の挙句に暴行事件を引き起こして出場停止と大幅な減給処分を課された。
実に4年連続の負の連鎖。原因はどこにあるのか?球団では過去にも規律委員会を設置したり、暴力団との接触を禁じる講習会の回数を増やしたり対応に追われてきた。今回の事件を受けても新たに生活相談の窓口を設ける検討を進めているという。だが、それで根絶できるかと言えば効果のほどは疑わしい。
本年に入ってロッテに在籍していた大嶺翔太も消費者金融らの借金などが発覚、球団に取立の電話がかかってくる事態などを受け、退団を余儀なくされている。また、今回の巨人の事件はひとつがネットオークションによる売買、もう1つがSNSによる拡散から発覚と今風の事件なのかも知れない。しかし、巨人という名門人気球団ならではの特殊性も垣間見える。
「ジャイアンツブランド」はかつてほどの威光はなくても、まだまだ光を放っている。そのユニホームに袖を通すだけで知名度は上がり、「タニマチ」も寄ってくる。ファーム暮らしなのにチヤホヤされれば勘違いも起こる。そこに酒癖が悪かったりすると不祥事まで発展しやすい。
加えて、ドラフト制以前は強くて人気のある巨人だから入団したいという選手側にも志があった。ドラフト施行後も江川卓や菅野智之は野球浪人してまで巨人入りの意思を貫いた。こうした「巨人愛」はドラフトで入団する選手には希薄となる。
時代と共に
あるV9時代のOBが嘆息する。
「まったく何をやっているんだか。昔の二軍寮には鬼軍曹と呼ばれた武宮(敏明)さんがいて、にらみを利かせていたから悪いことをやるにも命がけだった。試合になればちょっとしたミスでも罰金、これを繰り返すと倍々ゲームで徴収されるから給料が吹っ飛ぶくらい。厳しさが違ったよね」
今や、どこでも鉄拳制裁は御法度。過度の罰金徴収も科す時代ではなくなった。
一方で、サッカーのW杯でベスト16に進出した西野ジャパン健闘の要因は団結力であり、チーム愛だったという。レギュラーだけでなく控え組も裏方も首脳陣も団結したことで世界の列強と互角の戦いが出来た。ならば巨人の球団幹部に伝えたい。今こそ、チーム愛の旗を掲げ、その下で団結する事。負の連鎖を断ち切るには、この誓いを守れない選手は去って行ってもらうほどの英断が必要だろう。付け焼刃の対応であってはならない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)