「1番・センター」という矜持
「1番、センター、桑原」。耳慣れたアナウンスが、今季は聞こえない日々が続いた。
2011年、福知山成美高校からドラフト4位でベイスターズに指名された桑原将志は、2016年のシーズン途中から、同い年の乙坂智、2歳下の関根大気との外野手争いを制し、レギュラーの座を掴み取る。すると昨年は、「1番・センター」で全143試合に出場。打率.269、本塁打13本の成績を残し、今シーズンからは背番号も「37」から「1」に変更。チームの顔として、更なる飛躍を期待されていた。
しかし今年は、オープン戦で打率.167と調子が上向かず、苦しい時期を過ごす。それでもラミレス監督は、開幕戦のスタメンに「1番・センター」で桑原を指名。さらに「200安打」を課すなど、今年もリードオフマンとして変わらぬ信頼を寄せているように思えた。
ところが3月31日、本人も「正直ショックだった」と振り返る出来事が起こる。開幕2戦目にして、桑原に「代打・佐野恵太」が送られたのだ。さらに次戦では、誰もが不動だと思っていたリードオフマンの座に、ルーキーの神里毅樹が指名される。
とはいえ、「レギュラーは自分で守るもの。奪われた自分が悪い」。桑原は、すぐに前を向いた。技術的な面で大きな変更はしていないが、「自分のスイングを信じて、状況に合わせてしっかりと振る」ことを強く意識し、「今までよりも更に気持ちを入れて取り組んでいる」。
チャンス到来
ちなみに去年の7月は「.389」という高打率を残して月間MVPを獲得した。いわゆる“夏男”として、今年の夏もその活躍に大きな期待がかかる。しかし、本人は「とにかく今をしっかりやります。必要とされたときのために」と目の前のことだけに集中している。自身に“夏男”という意識はなく、そういった周囲の評価にも興味はない。
すると、「必要とされたときの為に」準備を怠らなかった桑原にチャンスが訪れる。「東京ドームとの相性がいい(ラミレス監督)」との理由により、7月3日から行われたジャイアンツ3連戦に「1番・センター」でスタメン出場。11打数6安打、4四死球、スーパーキャッチあり、好走塁ありの大活躍を見せる。
「勢いのつく試合になった」
その言葉通り、東京ドームでの巨人戦後も「1番・センター」でスタメン出場を続け、オールスター前までの4試合は“定位置”で躍動。この間の打率は「.500」を記録し、ホームランも2本。アグレッシブな守備も光っていた。本人に意識はなくとも、今夏の活躍にも期待がかかる。
熾烈な争いの中で
とはいえ、ホセ・ロペスが戻ってくれば、ネフタリ・ソトが外野に回る可能性もある。今はファームで調整中の梶谷隆幸も上がってくるはずだ。もちろん、神里も乙坂も、関根も楠本泰史も、今年のベイスターズは全員がライバルだ。
しかし桑原は、俊足の右打者というベイスターズにあっては珍しいタイプであり、パンチ力のある打撃も魅力だ。昨年ゴールデングラブ賞を獲得した守備力に加え、チームを波に乗せる爆発力もある。絶好調に見える今も、「やることは変わらない。レギュラーをとったとは思っていない」と、気を緩めることはない。
昨年とは違う状況でチーム内の競争を勝ち抜き、レギュラーの座を手にしたとき、一回りスケールアップしたハマのリードオフマンが誕生しているはずだ。
「いつも大きな声援は嬉しい、自分の原動力」とファンへの想いを口にする、燃えるガッツマン。ファンは、底抜けに明るい笑顔と、その全力プレーに声援を送り続ける。
「レギュラーを奪いに行く」。その目標に向け、泥臭く、直向きに、後半戦でも背番号と同じ“1番”センターを狙っていく。
取材・文 =萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)