コラム 2018.07.31. 08:00

中卒大リーガーと甲子園

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今年で第100回を迎える夏の甲子園大会(C)KYODO NEWS IMAGES

白球つれづれ2018~第22回・第100回記念大会を前に


 全国高等学校野球選手権大会の地方予選が7月30日で終わり、代表校が出揃った。第100回の記念大会にあたる今年は、出場校も例年より多い56校、本番の始球式には夏の甲子園で活躍した松井秀喜(星稜高OB)や桑田真澄(PL学園OB)らのレジェンドも登場予定で、華やかさは一層増すはずだ。

 こんな高校野球の季節を前に衝撃のニュースが舞い込んできた。16歳の逸材・結城海斗投手がメジャーリーグのロイヤルズとマイナー契約を結んだのだ。16歳と言えば本来なら高校1年、強豪校に入学していれば甲子園デビューを果たしてもおかしくない。事実、190センチ近い長身から最速144キロの速球を繰り出し、リトル時代には日本代表にも選出された結城のもとには、多くの有力校から誘いの手が伸びていたという。それでも、少年の出した答えは「甲子園よりメジャー」だった。


注目すべきポイント


 この話題には2つの注目すべき点がある。ひとつはMLBが日本の中学生をすでに狙っていること。そして、もうひとつは、その日本人中学生が進路の中にメジャーリーグを選択肢として持っていることだ。

 従来の野球少年のエリートコースと言えば、甲子園で名を上げてプロ入り。もしくは大学、社会人で経験を積んでプロの門を叩くのが常道だった。多額の契約金と年俸を手に入れて、その先でメジャーに挑戦することも可能だ。しかし、結城の場合はロイヤルズに入団とは言え所属はルーキーリーグになる。

 日本とは比べ物にならないほどの激しい生存競争の末、順調に成長しても4~5年かけてメジャーリーガーになれるかどうか、まず体力強化と英会話の勉強から始めるという。大きなリスクは承知の上で夢を追ったのである。MLB側から見れば、これまでも中南米を中心に「ベースボールアカデミー」を開設して人材の青田刈りを進めてきた。それをアジアでも推進しようというわけだ。


暑さという問題


 有望選手の人材流出に加え、今年は異常気象も甲子園を直撃する。全国で40度を超す高温は地方予選の段階から関係者の頭を悩ますことになった。熱中症で病院に搬送される観客が続出すれば、選手たちも足に痙攣を起こすなどの影響が多発した。京都予選では試合の開催時間をナイターに繰り下げたり、30日に行われた西東京の決勝戦(日大三vs.日大鶴ヶ丘)も例年なら午後からの開始を午前10時に繰り上げるなど酷暑対策に追われている。

また、8月5日から開幕する本大会も例年以上の暑さとの戦いが予想される。「真夏の風物詩」と呼ばれるうちは良かったが、地球全体の温暖化の中で果たして、高校野球だけがこのあり方でいいのか?一時的な対処法ではなく抜本的な改革が求められている。

 日本高野連は6月に全国の野球部員数と加盟校数を発表している。部員数15万3184は2003年以来15年ぶりの16万人を割り、加盟3971校は13年連続の減少だ。少子化に加えてスポーツの多様化もあり、ほとんどの子供が野球に親しむ時代ではない。それどころか、キャッチボールすら出来ない若者も珍しくない。スポーツ現場での野球離れは想像以上に深刻だ。

 これまで、甲子園の高校野球は「教育の一環」という大原則はさておき、プロ野球のスター育成工場の役目も担ってきた。王貞治、江川卓、原辰徳、清原和博、松坂大輔、田中将大ら、甲子園から生まれた大選手たちが日本の野球を隆盛に導いてきたことは間違いない。しかし、戦いの場を国内でなく世界に求める潮流があり、真夏の熱闘が開催すら危ぶまれる酷暑の世に限りなく近づいているのもまた事実。「第100回」の今、そしてその先にある甲子園大会のあり方が問われている。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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