白球つれづれ2018~第24回・山田哲人の進化
首位打者や、高打率を残す打者の秘訣は「タコ」をなくすこと――。
3タコ、4タコとはノーヒットで終わった時の業界用語。前の3打席に凡退しても続く打席で安打を生めば打率は.250。これが4打席目も凡退なら打率はゼロとなり、その差は大きい。長いペナントレース、良い打者はこうして数字を残していく。
なんでこんなことを書くかと言えば、ヤクルト・山田哲人の好調の秘密に迫りたいからだ。
12日の中日戦。8回を終えて0-1と苦しい展開だったゲームは、山田の足から逆転の幕が開いた。
この日は3打席無安打。9回の最終打席も遊ゴロに倒れたかに見えたが、自慢の快足を飛ばして内野安打とする。その直後にウラディミール・バレンティンの逆転の一発が飛び出した。
試合の綾をもう少し掘り起こしてみる。目下、盗塁王の山田が一塁に生きて1点差。相手バッテリーは当然その足を警戒するから、ストレート系の配球が多くなる。若い抑え役の中日・鈴木博志は動揺に加えてコントロールにもミスが生じやすい。狙いすましたバレンティンの一発は山田との共同作業でもあったのだ。
絵にかいたような逆転勝ちでチームはAクラス再浮上。山田にとっても打率争いで貴重な内野安打となったのだ。
好調の秘密は…
あの「2年連続トリプルスリー」から1年の停滞があった。
打率3割・30本塁打・30盗塁。バットマンとして安打を量産し、長打も打てる。その上に塁上を駆け回るのだから、これほど格好いい選手もいない。
3度目の快挙へ、視界はすこぶるいい。13日現在の打撃成績は打率.318でリーグ6位。28本塁打は僚友のバレンティンと並ぶトップで、26盗塁は断トツだ。
残り試合を考えれば、本塁打と盗塁はよほどのアクシデントでもない限り大台到達は時間の問題。打率もこの夏の上昇を見れば、首位打者だって狙える。昨年のスランプを経て、何が山田を復活させたのか…?
長年、二人三脚で打撃指導にあたる巡回コーチの杉村繁は今季の愛弟子の好調の秘密を分析する。
「技術的には何も変えていない。ただ例年ならシーズンオフにジャパンに選ばれたりして多忙を極めるのが、昨年は(不振もあって選ばれず)秋のキャンプからよく振り込んできたからね。それに去年は彼ひとりがマークされることも多かったが、今年は前に青木(宣親)がいて、後ろのバレンティンの状態もいいから、いい形で打席に立てている。これが大きい」
昨年はチームもワーストの96敗を記録。バレンティンらの主力にも故障が相次ぎ、戦う集団とは程遠い姿に転落した。たった一人、打線の柱となった山田には厳しい内角攻めもあって、本人も調子を落としていった。
それが今季はメジャー帰りの青木が巧みな技術で塁上を賑わし、山田を歩かせればバレンティンがいる。坂口智隆や雄平らの好打者も好調だから、破壊力はリーグ屈指だ。
さらなる高みへ
また、山田の更なる長所としては、好調の持続時間が長いことも上げられる。
今季も開幕直後はパッとしない時期が続いたが、6月ころから上昇カーブを描くとあとは手が付けられないほど。7月は9日の巨人戦で史上66人目のサイクル安打を達成。さらに下旬には4試合連続本塁打などの爆発で月間MVPも受賞した。
8月に入っても勢いは止まらず、4日の阪神戦で12試合連続打点をマーク。これは1986年に伝説の助っ人ランディ・バース(阪神)が打ち立てた「13試合連続」の日本記録には惜しくも届かずも、それに次ぐ快挙だった。
「打球にスピンをかける技術は天性の物」とバレンティンが認める素養に加え、人一倍の練習量が山田を進化させている。加えて今季はゲームの状況に合わせたバッティングも光る。
左本に、左安、右安、右安。これは11日の中日戦で山田が放った4安打の記録だ。先制アーチに同点打、そして決勝打。4打点すべてが勝利に直結している。
26歳にして、この男、3度目の「トリプルスリー」どころか、さらなる高みに上り詰めようとしている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)