リーグを代表する中継ぎ投手へ
今年も首位の広島が抜け出し、2位以下が大混戦になっているセ・リーグ。3年連続のクライマックスシリーズ進出に向けて、“勝負の8月”を迎えたベイスターズは、ここまで11試合で4勝7敗といまひとつ波に乗れていない。
課題のひとつは、先発投手の立ち上がりだ。ここまでの11試合のうち2回までに先制を許したのが9試合。5回前後で降板してしまうケースも多く、おのずとブルペン陣にかかる負担が大きくなっている。
開幕からフル回転のリリーバーたちの中でも、育成出身の左腕・砂田毅樹の奮闘が光る。月別の防御率を見ると5月に「3.86」という数字があるものの、7月は「2.16」と苦しい夏場に調子を上げ、8月もここまで「1.93」と安定した投球を披露している。
登板数はリーグ2位タイの50試合。中継ぎを任されるようになった2016年の夏から丸2年、砂田はリーグを代表するリリーバーの一人に成長した。
飛躍の原点
大きな飛躍を遂げた砂田だが、男の“原点”とも言うべき体験が今から3年前の2015年春にあった。
当時まだ育成選手だった砂田は、ナイターが開催されていたファームの本拠地・横須賀スタジアムにいた。メンバー入りしていなかった左腕は、チームスタッフらとともにネット裏にある一室で試合を見ていた。
その時、たまたま同時刻に一軍のゲームも行われており、チームスタッフの一人が持参していたタブレット端末にその試合の映像を流す。目の前でファームの試合が行われているなか、タブレットの画面では一軍の試合が流れているという状況が偶然にも生まれたのだ。
砂田「一軍と二軍は何が違うのか、周りにいた選手やスタッフの方たちと話し合いながら両方の試合を見ていたんです。それがすごく勉強になりましたね」
この時、一軍の試合のマウンドに立っていたのが三浦大輔だった。砂田は「18」を背負う大先輩の姿を注意深く見つめた。三浦の投球術に、自分が見習うべきものがあると、かねてから感じていたからだ。
「投球スタイルは人それぞれですけど、自分に合う人がいるはずだと思って(一軍の投手を)見ていく中で、いちばん合うのは三浦さんかなって。自分もそこまで速い球があるわけではないですし……」
砂田は、剛速球を投げない三浦が長年にわたって勝ちを重ねてこれた理由を知りたいと考えていた。それに加え、ファームの試合では失点することが多かった三浦が一軍に行くとしっかりと抑えていたことも、砂田にとっては“謎”だった。
食い入るように見つめる若い左腕は、ベテランの右腕から何を学び取ったのだろうか。砂田は言う。
「何がすごいかって、あのスピードの中でも緩急をうまく使ったり、裏をかいたりするところ。三浦さんはそこがうまいから、こうやって勝ってこれたんだと分かったんです」
老獪な投球術の重要性を知った砂田は、その直後に支配下契約を結び、一軍へとステージを移す。そして先発から中継ぎへと役割を変え、プロ5年目のシーズンとなった今年、ブルペンを支える立派な柱に成長した。
相手の「裏をかく」
三浦が示した「裏をかく」投球スタイルは、いまも砂田の拠りどころになっているという。
「あらためて映像を見たりはしませんけど、『三浦さんはこういうふうにやってたな』って思い出して、裏をかくイメージを自分の中につくることはありますね。中継ぎをやっているから、それが生かせるところもある。いつも調子がいいわけではないので、調子が悪い時にこそ『裏をかこう』と意識してやるようにしています」
「相手のバッターからすると、中継ぎ投手の調子がいいか悪いかなんて、分からないと思うんですよ。そういうところも活用できると思うし、まっすぐ、まっすぐで押しておいて、別の日の対戦では変化球主体でいったり。相手を手玉に取るというか、誘導するようなピッチングを心がけています」
裏をかく――。それは極めてシンプルな発想だが、投手と打者の駆け引きにおいて何よりも大切なものでもある。150キロを超えるようなスピードボールがなく、球種も決して多いほうではない砂田にとって、“裏をかく技術”こそが生命線となっている。
リリーフに転向し、たくさんの修羅場をくぐり抜けてきて「経験」が積み重なってきたことで、打者への観察眼もより鋭いものになった。
冷徹で老練な投球術で、チームを危機から救う23歳。反撃を期すベイスターズの切り札として、まだまだ出番はありそうだ。