コラム

甲子園の新怪物と魔物の正体

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9回裏日大三無死、代打小沢を二ゴロに打ち取り、雄たけびを上げる金足農・吉田=甲子園

白球つれづれ2018~第25回・真夏の甲子園


 第100回の記念大会に沸く甲子園を訪ねた。

 8月5日の開幕時には40度近い熱風に、さしもの高校球児も足がつったり、軽い熱中症に悩まされるなど炎熱の中の戦いとなった。それが終盤に差し掛かる頃になるとマンモススタンドにはさわやかな風が流れている。もうすぐそこに秋は近づいている。

 秋田県代表の金足農高が103年ぶりの決勝進出を決めた。100回大会でありながら、戦時中の中断があるため103年ぶりとなるわけだが、甲子園の常連ファンはこのチームが大のお気に入りだ。

 大黒柱の吉田輝星にはスターのオーラがある。4試合連続の2ケタ奪三振。とりわけ150キロに迫るストレートは打者の手元でうなりを上げて伸びてくる。過去の大会で言えば尾崎行雄(浪商)や江川卓(作新学院)らを彷彿させる。

 加えて野球の偏差値も高い。準々決勝の近江(滋賀)戦で見せた無死一・二塁の場面。バントの小フライをワンバウンドで処理して併殺。さらに続く回の同局面のピンチではバント処理から三塁へ矢のような送球で封殺。こちらは桑田真澄(PL学園)や松坂大輔(横浜)クラスのあふれる才能を感じさせる。

 今大会ナンバーワン右腕の称号を得て、秋のドラフトで1位指名となるのは確実。それも何球団が競合するか、早くも話題を呼んでいる。かつてヤクルトの敏腕スカウトで鳴らした片岡宏雄は「最低でも3球団」と占うが、さらに獲得へ名乗りを上げる球団は増えそうだ。

 そんな中で現役スカウトの中には悲鳴も聞こえてくる。「超一級品の素材はすでに証明済み、怖いのは投げ過ぎによる故障だけ」と心配顔である。甲子園初戦の鹿児島実から準決勝の日大三高戦まですべて150球近い熱投で秋田の地方大会もすべて一人で投げ抜いている。

 ゆうに1000球を超す肉体の酷使。準々決勝前には股関節に痛みを発症して関係者をヒヤリとさせる一幕もあった。「もうこれ以上、投げないで」がプロ側の偽らざる本音でもある。


魔物の悪戯


 エースこそ、超高校級だが、チーム全体を見渡せば、とりたてて強打者がいるわけでもない。守備だって危なっかしい。控え選手の層も薄い。そんな公立校の快進撃の裏には、甲子園の魔物が味方しているのかも知れない。

 信じられない逆転劇や奇跡のドラマを生むたびに話題となる魔物説。それを目のあたりにしたのは準々決勝の近江戦だった。1点差を追う9回裏の金足農の攻撃が始まる前からスタンドは異様な雰囲気になっていく。1球ごとにどこからともなく自然発生の拍手がボルテージを上げていった。

 ここでのキーワードは「判官びいき」だ。かつては野球不毛の地と言われた東北からの出場校。しかも野球エリートの集まる強豪私学ではない県立校、今ではほんの一握りとなった農業高校。こうした弱者?のひたむきなプレーに甲子園のファンは何かのドラマを期待して拍手を送り、肩入れする。

 一方で1点を守り切ろうとする近江側には、通常のプレッシャーに加えて、球場全体を敵に回すような重圧がのしかかる。まさに魔物が勝負をかき回す局面。案の定、さして強力とは言えない金足農の下位打線が連打と四球で無死満塁。最後は奇跡の逆転2ランスクイズで大どんでん返しの幕は降りた。


 ここでも近江の守備陣は奇襲に対応すべく声を掛けたが大歓声でかき消されたという。これもまた魔物の悪戯というべきか。準決勝の日大三戦では再三の大きな飛球が風に戻されて金足に味方する場面もあった。仮に左翼に強風が吹いていたら勝敗は変わっていたかもしれない。甲子園の気まぐれな風は過去にも魔の演出をしてきた。

 さあ、決勝は大阪桐蔭戦だ。名だたる強打者と好投手を揃えて春夏連覇を目指す桐蔭が現在の高校野球をリードする代表格なら、エースの吉田を中心に愚直なまでのバント野球を展開する金足農は昔の香りがする曲者集団。原稿を執筆する現時点で勝者は明らかではない。だが、第100回の節目の大会にふさわしい頂上決戦であることは間違いない。大阪桐蔭にとっては、甲子園の魔物との戦いでもある。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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