チームを救った一打
あの一打がなかったら、ベイスターズはCS進出争いから脱落していたのではないか――。
そう思わずにいられないのは、9月17日の阪神戦(横浜)の8回裏、宮崎敏郎が放った同点ソロだ。
前日の試合では今シーズン最多20失点の大敗。17日もネフタリ・ソトの初回3ランで奪ったリードを吐き出すと、8回表についに勝ち越されてしまう。窮地に追い込まれたところで打席に立った宮崎の打球は高々と舞い上がり、横浜スタジアムの黄色い左翼ポール上部に命中した。
片膝をつく藤川球児を横目にダイヤモンドを駆け抜けた本人曰く、「奇跡的」な一発。追いついたベイスターズは延長10回、ソトのサヨナラ2ランで歓喜の瞬間を迎えた。
以降6戦は5勝1敗(成績は9月24日終了時点・以下同)。息を吹き返したチームはいま、3年連続のCS進出権獲得へ日に日に近づいている。シーズンを通じて試行錯誤が続いたベイスターズのラインアップも、ここに来て中軸の並びは固まった感がある。
1番の大和に始まり、宮崎、ソト、筒香嘉智、ホセ・ロペスと続く上位打線は、相手バッテリーに脅威を与えるに十分な顔ぶれだ。
とりわけ2番に宮崎を置いていることが、「うちは攻撃的に戦いますよ」という強烈なメッセージとなっている。スモールベースボールはいったん棚に置き、初回から一気呵成の攻めをもくろむ。
本塁打増加の要因は…?
8月26日から、欠場した1試合を除いて2番に座り続ける宮崎は言う。
「2番だと言われた時も、別にびっくりはしませんでした。何年か前に打ったことのある打順ですし、変わったことをしろと言われたわけでもありませんしね。大和さんがつないでくれるから、ぼくも後ろにつなぐという気持ちで打席に入っている。そこは“打線”になるように、という意識でやっています」
今シーズン、宮崎の打撃成績は首位打者を獲った昨シーズンをいくつもの指標において上回っている。
安打数も、打点も、シーズン途中でありながら昨年の成績を超えた。最も顕著なのはホームランの数だ。キャリアハイだった昨シーズンの15本から、今年はすでに27本。思い当たる理由として、宮崎はこう述べる。
「パワーアップのために特別なトレーニングに取り組んだわけでもない。まあ……風のおかげだったり(笑)。あるとすれば、ゴロが減ったことじゃないですかね。今年は意識してフライを打とうと思っているので、それが(ホームラン数増加に)つながってるんだと思います」
宮崎に打撃面の課題があるとすれば、それは併殺打の多さだった。昨シーズン23個の併殺打はリーグ最多。足が速いわけでもなく、バットコントロールの巧みさがもたらす副産物とも言えたが、今年はそれが13個にまで減っている。
流れを止めず、後ろにつなぎ、“打線”として機能するように――。その意識が宮崎にフライ打ちを促し、ひいてはホームラン数増加へとつながっているのだ。
「チームが勝つために自分がどうすればいいか」
ここまでチーム最多の132試合に出場。欠場は1試合のみで、筒香が戦列を離れた際には4番も打ち、右へ左へと自在に打球を飛ばしてはチームを救ってきた。
9月13日のカープ戦から10試合連続安打を継続中で、9月の月間打率は.373。勝負の秋を迎えてなお調子を上げてきた安打製造機はしかし、自身の話題になるとちょっと困った表情を浮かべる。
「うーん……自分のことはあんまり考えてないんです。チームが勝つために自分がどうすればいいか、ということは考えてますね。自分が打った、打たないじゃなくて」
一貫したチームバッティング。それでありながら、己の成績が犠牲にならず、むしろ向上している。そこに宮崎の凄みがある。
ひげの似合う29歳は言った。
「チームの雰囲気はいいですよ。勢いに乗ったら(競り合うチームにとっては)怖いと思う。この勢いのまま、最後までいきたいと思います」
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