白球つれづれ2018~第30回・高卒ドラ1野手
ペナントレースも最終盤、各チームの戦いを追っていくと、それぞれの台所事情が垣間見えて興味深い。広島と西武は日本一の頂だけをすでに見つめている。クライマックスに進出可能な各球団は、ここまでくると星勘定などしていられない。一戦必勝のその日暮らしに全エネルギーを費やしていく。その可能性すらなくなったチームは来季へ向けたテストや若返り策に舵を切る。
そんな背景も含めて、清宮幸太郎(日本ハム)、安田尚憲(ロッテ)、村上宗隆(ヤクルト)といった昨年のドラフトを沸かせた高卒野手ルーキーたちの出番が増えている。
一年前のドラフトでは高校通算101本塁打の清宮に7球団が指名競合、その怪物君を日本ハムに持っていかれると、今度は安田と村上にそれぞれ3球団の争奪戦。彼らもまた将来の球界を背負って立つ金の卵であることは間違いない。
秘密兵器として
16日の神宮で、ど派手な一軍デビューを飾ったのは村上だった。広島戦に「6番三塁手」としてスタメンに名を連ねると、いきなり右翼へ初打席初本塁打を放った。高卒ルーキーの初打席ホーマーは史上7人目ながらドラフト1位に限れば史上初。やはり何かを持っているのだろう。
昨年のドラフト時には清宮と安田に広島1位指名の中村奨成が「高校三羽烏」ともてはやされたが、スカウト間の評価は負けず劣らず高かった。熊本・九州学院時代は強肩強打の捕手として通算52本塁打。ヤクルトでは三塁にコンバートされて、ファームで研鑽を積んできた。
「柔軟性や対応力が素晴らしい。間違いなくこれからのヤクルトを背負って立つ逸材」と監督の小川淳司も将来性に太鼓判。188センチ、97キロの巨体から繰り出すスウィングスピードは群を抜いている。こちらはクライマックスから先の「秘密兵器」としての期待も含めた抜擢かも知れない。
将来の中軸として
この村上に負けじ、と24日には安田と清宮も爆発だ。前日に2度目の一軍昇格を果たした安田は、オリックス戦で3打数2安打4打点の大活躍。「こういうのを待っていた」と指揮官の井口資仁を小躍りさせた。
8月の初昇格時に空振り三振させられた西勇輝のストレートを今度は第1打席で右翼フェンス直撃の二塁打。エース級にすくさまリベンジするあたりが非凡さの証明でもある。
高卒ルーキーの1試合4打点は86年の清原和博らに次いでドラフト制後では5人目。チームの若返りを進める井口にとって、一発の魅力もある安田は将来的には中軸を任せたい素材。すでに来季を睨んだ育成のスピードが加速していく。
7球団競合の片鱗
フレッシュな2人に対して清宮の場合はすでに準レギュラーの位置にいる。同じく24日のソフトバンク戦ではゲームこそ惜敗したが、最終回に意地の6号アーチ。尊敬する王貞治(現ソフトバンク球団会長)の新人時代の本塁打記録にあと1本と迫った。
キャンプでは局限性の腹膜炎で出遅れ、シーズンに入っても右ひじ痛でベンチを温めるなど本人にとっては不本意なスタートかも知れない。だが一度バットを握れば、その素質は頭抜けている。5月には7試合連続安打の新人連続安打記録を樹立。来季、フル試合出場を果たせば間違いなく30ホーマー近い数字を残すだろう。
「我々がアドバイスは出来ても、それを実現していくのは本人の努力しかない。当然、清宮クラスの選手になればこちらの要求も高いものになる」と監督の栗山英樹は更なる飛躍を期待する。
1年前に話題を独占した黄金ルーキーたちもプロの荒波にもまれて、まもなく最初のシーズンを終えようとしている。この3人に共通しているのは、数字的には不満足でもやはりキラリと光る原石の輝きをすでに証明している点である。
あとわずかになった残り試合の中でどこまで大器の実力を発揮できるのか?胴上げだけが野球じゃない。ファンはすでに彼らの2年目に夢を描いている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)