狂気の10月を大展望
2018年のMLBレギュラーシーズンは全日程が終了した。
イチロー選手が早々にシーズンを終了せざるを得なくなったことに時代の流れを感じつつも来季への希望を抱き、平野佳寿投手の泰然自若な大車輪の活躍に興奮、ド派手なデビューから投手としては再来年からの再挑戦という結果になってしまいながらも、その余りある才能を見せつけてくれた大谷翔平選手の“一挙手一投足”に、連日連夜ならぬ“連日連朝”興奮していたMLBファンも多かったと思います。
ボクは幸運にも、6月に記者としてアナハイム、アリゾナ、サンディエゴで取材を行う機会をいただきました。選手やコーチに直にインタビューし、またいわゆるレジェンドの方々とご挨拶させていただいたり、至近距離ですれ違ったり(中学~高校の時に大好きだったマーク・マグワイア<現パドレス打撃コーチ>とすれ違った時は震えてしまった……)、個人的に一生忘れないシーズンになることは間違いないでしょう。
とはいえ、半年かけて162試合を戦ってきたレギュラーシーズンは、10月に「11勝(ワイルドカードからだと12勝)」するための序章に過ぎません。そう、盛り上がり方が尋常でなく狂気じみていることから「オクトーバー・マッドネス」とも呼ばれている、全10チームによるポストシーズンが、いよいよ明日から始まります。
アメリカン・リーグ
▼ 165億と66億
先ずはアメリカン・リーグ。ワイルドカードは開幕時の年俸総額165億ドル(約1兆8760億円)のヤンキースが、ホームに年俸総額66億ドル(約7500億円)のアスレチックスを迎えての一発勝負。ヤンキースの先発は、7月末に移籍してから11試合に登板して7勝0敗のJ.A.ハップと予想します。田中将大投手は8月まで好調だったものの9月は下降線、またルイス・セベリーノはアスレチックスと相性が悪いため、今季のアスレチックス戦で6回1失点と好投したハップが適役でしょう。
アスレチックスは、今季ノーヒッターを記録したショーン・マナエアが故障で欠場。どうやら中継ぎのリアム・ヘンドリクスが“オープナー”役として先発を務め、後半戦だけを見れば30球団で唯一の防御率2点台を記録したブルペン陣をフル稼働させ、先発と心中するのではなく、豊富なブルペン陣を駆使した細かな継投で一発勝負に臨みそうです。
▼ 今季最多の108勝
WCの勝者を迎え撃つのは、今季のMLBシーズン最多勝利、チームとしても歴代最多の108勝を記録したレッドソックスです。
リーグ優勝の候補筆頭であることは間違いありません。毎年の様にシーズン序盤から夏までは絶好調ながら、飛ばし過ぎて終盤に失速という形を繰り返していたエースのクリス・セールが、今年は幸か不幸か故障の影響で夏場にしっかり休養できました。その影響が良い方向に出るでしょうか。
しかしシーズン最多勝とは言いながら、投手陣にはセール以外に絶対的な存在がいないのも事実。守護神クレイグ・キンブレル、そして先発陣のリック・ポーセロとデビッド・プライスはポストシーズンで結果を残せていません。首位打者ムーキー・ベッツ、打点王JD.マルティネスを中心としたリーグ随一の打線に頼るところは大きいでしょう。ちなみに今季の対戦成績は、対ヤンキースが「10勝9敗」、対アスレチックスが「2勝4敗」です。
▼ 昨季王者は盤石!?
西地区優勝、そしてディフェンディング・チャンピオンのアストロズはシーズン途中に故障者が続出したものの現時点ではフルメンバー。2年連続でシーズン100勝を突破し、9月も絶好調。投手陣はジャスティン・バーランダー、ダラス・カイケル、ゲリット・コール、チャーリー・モートンの先発陣を中心にチーム防御率はMLB断トツの1位です。
打線は記録上では昨年よりも劣りますが、飛躍の1年となったアレックス・ブレグマンを中心に、チームお得意のホームラン・セレブレーション「全員でカメラ目線」が連発することになれば、1998年~2000年に3連覇を果たしたヤンキース以来のワールドシリーズ連覇が見えてくるかもしれません。
そのアストロズと対戦するインディアンズは、地区優勝したものの同地区の他球団が総じて弱かったこともあり、アストロズの方が明らかに格上と言わざるを得ません。ただ、今年「30-30」を達成したホセ・ラミレス、今年は故郷プエルトリコでもホームランを放ったフランシスコ・リンドーアは共にMVP級の活躍でした。
そこに8月末に移籍し怪我から復帰した“ポストシーズン男”のジョシュ・ドナルドソンや、2016年に獅子奮迅の活躍を見せたアンドリュー・ミラーが再びポストシーズンで輝けば……先発陣の質は高いだけに、劣勢をはねのけることもできるかもしれません。
ナショナル・リーグ
早々に大勢が決まったアメリカン・リーグに対し、ナショナル・リーグの中地区はカブスとブリュワーズが、西地区はドジャースとロッキーズが、それぞれ162試合を消化して勝敗が同数となり、優勝決定戦、“ワンゲーム・プレーオフ”となる「163」戦目を戦うという大混戦を極めた稀有なシーズンとなりました。その結果を、日本時間10月2日(火)未明~早朝にかけて観戦しつつ、この原稿を書いているので、まずは既に決まっている東地区から。
▼ 30球団随一のプロスペクト
他地区の混戦をよそに、早々に地区優勝を決めたのが東地区のブレーブス。誰しもがナショナルズの3連覇を予想する中、30球団随一のプロスペクト(=有望な若手)が、恐らくチーム首脳陣の期待を上回る程に急成長を遂げ、5年ぶりの地区優勝をかっさらいました。試合を重ねる毎に経験を積み、オジー・オルビーズ、ダンスビー・スワンソン、ヨハン・カマーゴ、そして新人王候補のロナルド・アクーニャJr.といった才能溢れる若手たちが、その勢いをポストシーズンで加速させることが出来るでしょうか。
今年6月、現ブレーブスの三塁ベースコーチで、かつて監督としてレンジャースをワールドシリーズまで牽引したロン・ワシントン氏にインタビューしたとき、「若い連中は才能に溺れることなく成長する為に日々努力を重ねている。その若手をまとめるチームリーダーのフレディ・フリーマンの存在も大きい。誰かひとりが目立つチームは良くなくて、野球はベンチ入りした25人、チーム全員でやるものだ。このチームはそれが出来つつある」と話してくれたことが、正に実現しました。
▼ MVP候補イエリッチ擁するブリュワーズ
中地区はオールスターブレイクから首位を守っていたカブスに対し、効果的な補強を重ねてチームを激変させたブリュワーズがシーズン161試合目でカブスに追いつき同率でシーズン終了。163試合目となるワンゲーム・プレーオフをその勢いに乗って勝ちきり、2011年以来となる地区優勝を決めました。
特にシーズン終盤に大活躍した首位打者にしてシーズンMVP候補のクリスチャン・イエリッチを筆頭に、ロイヤルズ時代に世界一を経験したロレンゾ・ケインとマイク・ムスタカス、オリオールズから移籍してきたWBCオランダ代表のジョナサン・スコープが役割を果たし、コリー・クネイベル、ジェレミー・ジェフレス、そしてジョシュ・ヘイダーといった盤石のブルペン陣を擁して10月も好調を持続することが出来るでしょうか。先発陣が弱いため、早めの投手交代を重ねすぎるとブルペン陣がスタミナ切れする心配も。
▼ 敗れたカブスは…
一方、ブリュワーズに最後の最後でひっくり返されたカブスは世界一になった2016年、リーグ優勝決定シリーズまで勝ち進んだ昨年と比べ、野手陣の層の厚さは変わらないものの、9月は打てない試合が多く、いわゆる好投手に対しては打線が沈黙することが多々あり、ポストシーズンでそれを克服できるか不安です。
安定した先発陣に比べてブルペン陣は火の車。クローザーのブランドン・モローが今季絶望、セットアッパーのペドロ・ストロップも9月に負傷しポストシーズンに間に合うかまだ未定、と不安要素しかありません。兎にも角にもワイルドカードで先発するであろうエースのジョン・レスターに先ずは命運を託すことになるでしょう。
そして全てのカブスファンはこう思っているはずです。カブスファンのみならず、アメリカや中南米の野球少年少女たちからも絶大な人気を誇る打点王ハビアー・バエズが、“何か”やってくれるだろうと……。
▼ マエケンは救世主になれるか!?
中地区と同じく西地区も「163」戦目でドジャースがロッキーズを下し、ドジャースはブレーブスと、ロッキーズはでカブスと対戦することになりました。昨年は惜しくもワールドシリーズ第7戦で涙を呑んだドジャース。今季も盤石との下馬評でしたが、前半戦はダイヤモンドバックス、後半戦はロッキーズを中心とした激しい地区争いに終盤まで巻き込まれました。
今季絶望となったコーリー・シーガーを筆頭に故障者が続出し、守護神ケリー・ジャンセンが低迷、前田健太がセットアップに転向した一方で、マット・ケンプの復活やマックス・マンシーのブレイク、マニー・マチャドの加入がありました。その結果、リーグトップの得点と失点を記録するといった、全てに於いて「出入りの激しい」シーズンでした。
昨年の悔しさを晴らすためには、特にブルペン陣の奮起が急務かと思われます。前田健太投手は昨年のポストシーズンが良かっただけに、30年ぶりの世界一を目指すチームの“救世主”となるかも知れません。
▼ 強力打線で驚異の追い上げ
ロッキーズは6月まで借金を背負っていたのにもかかわらず、7月からV字回を果たし、9月中旬にドジャースにスウィープされたものの直後から8連勝、最後の10試合を9勝1敗で終えてドジャースに追いつきました。
本塁打王ノーラン・アレナド(38本)、同2位のトレバー・ストーリー(37本)を中心とした強力打線は相手にとって脅威そのもの。そして例年リーグ最下位レベルだった投手陣が今年は“そこそこ”良く、先発カイル・フリーランドは打者天国のクアーズ・フィールドを本拠地としながら、防御率が何と「2.85」。恐らくワイルドカードはフリーランドと心中、カブス打線を抑えることが出来るでしょうか。
日本時間の10月2日(火)午前8時31分、ドジャースがロッキーズを5-2で下して地区6連覇を果たしたのを見届けて、この原稿を入稿しました。そして早くもナショナル・リーグのワイルドカード、カブスvs.ロッキーズが、日本時間の10月3日(水)午前9時試合にプレイボール。「オクトーバー・マッドネス」がいよいよ始まります。
どのチームが「11勝(ワイルドカードからだと12勝)」できるのか、寝不足を承知で目一杯楽しみたいと思います!
文=オカモト“MOBY”タクヤ(おかもと・もびー・たくや)