コラム

菊池、筒香、今宮、長野……初のファン観覧が実現した09年ドラフトを振り返る【平成死亡遊戯】

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スポンサーがつき、初めて一般公開されたプロ野球ドラフト会議。西武・渡辺監督の見せる花巻東高・菊池雄星投手の当たりくじにファンが沸いた

高卒左腕に6球団


「もうあのひと言だと思います。ありがとうございます」

 ロッテの井口資仁監督はそう言って、会場にいたファンの声援に感謝した。1位指名で重複した藤原恭大(大阪桐蔭)の抽選箱に手を入れた際には、阿吽の呼吸で観覧席から「まだ当たりが残ってるぞ」と掛け声がかかる。見事に残りクジで引き当てると、球団は数日後に「井口監督 LUCKY Tシャツ」の発売を決定。すっかりファンも球団も“参加型ドラフト”に慣れてきた。
 
 今年でちょうど10回目。初めてドラフト会議に一般公募でファンが招待されたのは2009年のことである。約15倍の倍率を通過した1000人が会場でドラフトの行方を見守った。自分も運良く当選して、会社の半休を取り「グランドプリンスホテル新高輪の国際館パーミルってどこ?」なんつってパソコンからプリントアウトした地図を片手に歩いたのを懐かしく思い出す(当時はまだスマホはほとんど普及してなかった)。映画『ROOKIES -卒業-』が大ヒット、ロックスター忌野清志郎が亡くなり、プロボクシングの内藤大助vs.亀田興毅が注目され……と書くと完全に一昔前だ。

 全83名(育成ドラフト17名含む)が指名された、この年の目玉選手は5日前に涙のメジャー挑戦断念会見をしていた154キロ左腕・菊池雄星(花巻東)である。高校生投手で過去最多の6球団が競合し、最初に抽選箱に手を入れた西武の渡辺久信監督が当たりクジを引き当てる。大歓声に包まれる会場で、“交渉権獲得”の用紙を観覧者に向かって掲げる渡辺監督の姿は、これまでのドラフト会議には見られなかった光景だった。

 プロ入り当初の登録名は「雄星」、1年目は故障もあり一軍での登板はなかったが、登録名を菊池雄星に戻した2年目には一軍デビュー。初の二桁勝利は、自身初の開幕投手を務めたプロ7年目の16年シーズンというのは意外な気もするが、17年には16勝と防御率1.97の好成績で、最多勝と最優秀防御率のタイトルを獲得する。そして、チームが10年ぶりのリーグ優勝を飾った今オフ、球団もポスティングシステムによるメジャー移籍を容認へ。9年前の秋、ドラフト指名直後の会見で西武の印象を聞かれ、涌井秀章や岸孝之ら先輩投手の名前を挙げた菊池も、彼らと同じく所沢に別れを告げ、新天地で挑戦することになりそうだ。


来季10年目のシーズンへ


 さて、09年組の野手出世頭と言えば横浜ベイスターズ1位の筒香嘉智(横浜高)だろう。同校の小倉清一郎部長は「おかわり君のような日本一の本塁打王になれる」と期待し、横浜ベイスターズの佐藤貞二常務も「20年に一人の逸材」なんて絶賛。そんな周囲の喧噪を横目に18歳の筒香自身は「プロに慣れればやっていける自信がある」と冷静に語り、大物ぶりを感じさせる。その後の侍ジャパンの4番を張る活躍はご存知の通りだ。

 この年は高校生選手の当たり年で、ソフトバンク1位は今宮健太(明豊)。地元・九州のチームからの1位指名を喜び、「まずは堅実な守備を身につけ、『守りの今宮』と言われたいです」と宣言した男は、有言実行で13年から5年連続の遊撃部門ゴールデングラブ賞を獲得。今季は故障に苦しんだものの、球界を代表するショートストップにまで登り詰めた。

 広島1位の今村猛(清峰)は同世代で最も早く一軍の主力に定着した投手だった。2年目54試合、3年目69試合と投げまくり、2013年春のWBCでは21歳の若さで代表入りして話題に。ちなみに2位指名の堂林翔太(中京大中京)は女性人気が高く、プリンス堂林ファンが球場のスタンドの雰囲気を変え、のちの“カープ女子”のベースとなった説もあるほどだ。

 4年越しの夢を掴んだのは、巨人が事前に1位指名を公表した長野久義(ホンダ)。06年日本ハム4位、08年ロッテ2位と2度の指名を拒否して、三度目の正直で巨人1位指名を受けた。25歳の“超即戦力ルーキー”は1年目からレギュラーを奪い新人王に選出され、2年目には首位打者も獲得。入団から5年間の通算安打数767本は日本人選手としては長嶋茂雄や青木宣親を抑えてNPB歴代最多記録となる。14年オフの右膝と右肘の手術以降は守備や走塁に精彩を欠いているが、9年前の『週刊ベースボール』2009ドラフト総決算号のインタビューを読むと非常に興味深い。25歳の遅いプロ入りについて聞かれた長野はこう答えているのだ。

「脂が乗り切った状態、つまり、思い通りに体が動くのは、あと10年くらいだと思います。10年後は35歳ですか……。そこまでやれる人も、一握りですからね」

 時の流れは早い。長野久義は来季プロ10年目、その35歳のシーズンを迎えようとしている。10年後もプロ野球選手でいられるのは一握り。09年栄光のドライチ選手ですら、阪神1位の二神一人(法政大)は現役引退後に球団広報へ。オリックス1位の古川秀一(日本文理大)のようにすでに打撃投手に転身したケースもある。

 一方で09年ドラフトでは、下位指名グループに実力派選手が揃っているのも特徴だ。某名門の高校野球監督が「ドラフト4位以下でプロ入りすると、30歳を越えるまで現役でできる選手は5%いない。ご両親にその現実を伝えてOKならプロ入りを」と言うほど過酷なサバイバルを勝ち抜いた男たち。ロッテ4位・清田育宏(NTT東日本)、中日5位・大島洋平(日本生命)、日本ハム5位・増井浩俊(東芝)、阪神4位・秋山拓巳(西条)、阪神6位・原口文仁(帝京)。巨人4位の市川友也(鷺宮製作所)は移籍先の日本ハムで開花し、今季からソフトバンクでプレーしている。

 育成含め全104選手が指名された2018年ドラフト。果たして、10年後に生き残っているのは誰だろうか?


【09年ドラフト12球団1位指名選手の通算成績】
<セ・リーグ>
▼ 巨人:長野久義(外野手/ホンダ)
1209試 率.286 1271安打 137本塁打 500打点 93盗

▼ 中日:岡田俊哉(投手/智弁和歌山高)
247試(310回) 14勝16敗 65HP 3セーブ 防御率3.22

▼ ヤクルト:中沢雅人(投手/トヨタ自動車)
173試(264回) 12勝14敗 21HP 防御率4.84

▼ 阪神:二神一人(投手/法政大)
27試(40.2回) 0勝3敗 1HP 防御率5.31
※16年限りで引退

▼ 広島:今村猛(投手/清峰高)
398試(472回) 18勝29敗 128HP 35セーブ 防御率3.38

▼ 横浜:筒香嘉智(内野手/横浜高)
837試 率.287 851安打 176本塁打 534打点 5盗

<パ・リーグ>
▼ 日本ハム:中村勝(投手/春日部共栄高)
59試(287.1回) 15勝16敗 防御率3.92

▼ 楽天:戸村健次(投手/立教大)
101試(362.2回) 17勝25敗 3HP 防御率4.27

▼ ソフトバンク:今宮健太(内野手/明豊高)
950試 率.247 788安打 52本塁打 309打点 61盗

▼ 西武:菊池雄星(投手/花巻東高)
158試(1010.2回) 73勝46敗 1セーブ 防御率2.77

▼ ロッテ:荻野貴司(外野手/トヨタ自動車)
606試 率.270 555安打 21本塁打 158打点 173盗

▼ オリックス:古川秀一(投手/日本文理大)
63試(62.1回) 0勝2敗 5HP 防御率4.48
※15年限りで引退


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
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