掴んだ手応えと露呈した課題
2018年シーズンの国吉佑樹は、中継ぎとして開幕一軍入りを果たした。
ここ数年は結果が出なかったが、去年のオフから「カットボール」という新しい武器を手に入れたことで、課題だったコントロールが安定。ストレートとカットボールのコンビネーションという“ニュースタイル”で挑んだ9年目の成果だった。しかし開幕直後の6日、打球が右ふくらはぎに直撃するアクシデント。思えばこれが波乱のシーズンを暗示していたのかもしれない。
故障も癒え、5月24日に再登録されると、敵地神宮でのスワローズ3連戦ではいきなりの3連投。ストレートは157キロを計測し、パーフェクトピッチを披露した。交流戦に入り福岡でのホークス戦では、ビハインドの場面での“イニングイーター”として6月1日に2回、同3日には2回2/3を共に無失点に抑え、期待値は上がっていった。
しかし久々の横浜スタジアムで落とし穴が待っていた。疲労の影響もあったのか、5日のライオンズ戦で浅村栄斗にホームランを許して2失点。7日にも2失点を喫すると、13日に行われた千葉でのマリーンズ戦でも失点し、翌日に登録抹消。7月3日に再び上がってくるも、10日のドラゴンズ戦では3与四球のほか、ダヤン・ビシエドに被弾するなど調子が上がらない。翌日には再びファーム行きを命じられたが、打たれたことで課題は明確になった。
国吉は「相手にカットボールのイメージがついてきた。内野ゴロに打ち取れていたカットをファウルで逃れられるようになってしまった」と分析。ストレートとカットのスタイルに限界を感じ、もう一度、己の投球を見つめ直した。
奇策が好転
シーズン終盤、CSの出場権を争う中でまさかの知らせが届く。加賀繁の引退試合後、25日の先発登板が告げられた。「分かりましたと答えなければいけないのに、思わず『えっ!』と言ってしまった」と本人もビックリのラミレス采配。2年2カ月ぶりの先発、対するカープはマジック「1」、チームは4位で3位のジャイアンツまで「0.5」ゲーム差、様々なサブタイトルが付く大事な試合を任された。
ラミレス監督からは「とりあえず1巡目を。その後は行けるところまで」との要求だった。先発ということもあり、見つめ直したピッチングで勝負。初回からフォークで三振を取り、カープ打線にカットだけではないイメージを植えつけた。大きなカーブも取り混ぜ、タイミングを外して見せた。
4回2死、ランナーを2人残した場面でお役御免となったが、被安打2、勝負を避けての四球が1、奪三振2と上々の内容で無失点ピッチングを披露。同時に“ニュースタイル”のヒントも得て、国吉の波乱のシーズンは幕を閉じた。
豪州で武者修行
そして国吉は自ら動いた。今年7月18日にベイスターズが戦略的パートナーシップ契約を結んだオーストラリアン・ベースボールリーグの強豪チーム『キャンベラ・キャバルリー』への参戦を希望し、受け入れられた。期間は11月上旬から1月末までのフルシーズン参加で、年末年始も帰国はしないという。
「気候のいいところで実戦を経験できるいい機会。キャンプに向けてやるべき課題をクリアしてスムーズに合流したい」と意気込む。また通訳の同伴も最初だけで、その後は自炊生活が待っている。「英語はしゃべれない」国吉にとって、不安も付きまとうだろう。家族を日本に残し、あえて厳しい状況に身を置くことにより、精神面での成長にも期待がかかる。
もちろんニュースタイルの確立が最重要課題。最後のカープ戦のピッチングを軸に「空振りに取るならフォーク、打たせて取るなら動くカット、目先を変えるカーブを、オーストラリアのパワーバッターを相手に試しながら精度を上げる」と、やるべきことは明確だ。
勝負の10年目へ
的確なコーチングで信頼をおく大家友和コーチ、映像で頻繫にチェックしてくれる川村丈夫コーチに加え、今年からは一緒に自主トレを行っていた三浦大輔、バッテリーを組んでいた鶴岡一成、そして二軍監督として指導してくれた田代富雄がチームに帰ってくることも「心強い」と口にする。彼自身ではコントロールできない人事面でも追い風が吹いてきた。
「オフは要らない。来年は1年間一軍で活躍します。オーストラリアで一回り大きくなって帰ってきます!」
高らかに宣言した国吉佑樹。2019年、勝負の10年目に向け、遂に巨人の進撃が始まる。
取材・文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)