FA後の年俸は「現状維持」が上限!?
今オフに球界の大きな注目を集めたのは丸佳浩、浅村栄斗、西勇輝、炭谷銀仁朗らFA権を行使した選手たちの動向だった。それぞれに移籍先が決まり、注目はその補償がどうなるかということに移っている。
ただ、FA制度に関する規定は意外と複雑。あたりまえのように「FA宣言」「人的補償」といった言葉を使っている野球ファンであっても、その詳細についてはあまり詳しく知らないという人も少なくないだろう。そこで、FA制度の基本についてあらためておさらいをしておきたい。
FAとは「フリーエージェント(free agent)」の略称である。直訳すれば「自由行為者」となり、「自分の行為を自らが決定できる者」という意味となる。プロ野球においては、いずれの球団とも選手契約を締結できる権利(FA権)を持つ選手を指す。FA権を行使することが、「FA宣言」である。
FA権には国内球団と選手契約を締結できる「国内FA権」、海外の球団も含めていずれの球団とも選手契約を締結できる「海外FA権」の2種類がある。国内FA権を取得するには8シーズン、海外FA権を取得するには9シーズンの出場選手登録(一軍登録)日数が必要とされる。
この場合の1シーズンとは「145日」である。ただし、1シーズンの出場選手登録日数が145日以上になっても145日が上限とされる。また、シーズンの出場選手登録日数が145日に満たなければ、それらを合算して145日で1シーズンとされる。CSにおける登録日数もカウントされるため、CS出場はFA権取得のためにも選手に有利に働くこととなる。
出場選手登録日数の計算方法には、特例としての救済策もある。球宴前後に登板間隔が10日以上になる、あるいはレギュラーシーズン終了からCSまでの間に10日以上あるために自動的に登録抹消となる場合には、規定の日までに再登録されれば抹消期間も登録扱いとなるのだ。その他にも、グラウンド上で故障した選手に対する救済策も設けられている。
FA権を行使する場合は、日本シリーズ終了翌日から土曜・日曜・祝日を除く7日以内にコミッショナー宛てに文書で申請する。その後、8日目にFA宣言選手として公示され、その翌日より各球団との契約交渉をおこなうことが可能となる。
宣言残留も含め、FA宣言をした選手が国内球団と契約する場合、翌シーズンの年俸は現状維持が上限である。ただ、契約年数や出来高払い、2シーズン目以降の年俸に制約はない。FA宣言した選手の契約が「総額いくら」というふうに報道されるのはこのためだ。
人的補償は同一リーグ球団が優先
そして、FA権を行使して他球団に移籍した選手の旧年俸が前所属球団で上位3位以内の場合は「ランクA」、4位から10位までは「ランクB」、11位以下は「ランクC」とランクづけされ、移籍選手がランクAやBの場合、移籍先の球団には前所属球団への補償の義務が生じる。
その補償は、獲得制限外の選手1名を与える「人的補償」と、金銭を支払う「金銭補償」、そしてその組み合わせというふうに分けられる。
【FA移籍に伴う補償の種類】
▼ 移籍選手がランクAの場合
・人的補償なし
旧年俸の0.8倍の金銭
(2度目以降のFAでは旧年俸の0.4倍の金銭)
・人的補償あり
獲得制限外の選手1名+旧年俸の0.5倍の金銭
(2度目以降のFAでは獲得制限外の選手1名+旧年俸の0.25倍の金銭)
▼ 移籍選手がランクBの場合
・人的補償なし
旧年俸の0.6倍の金銭
(2度目以降のFAでは旧年俸の0.3倍の金銭)
・人的補償あり
獲得制限外の選手1名+旧年俸の0.4倍の金銭
(2度目以降のFAでは獲得制限外の選手1名+旧年俸の0.2倍の金銭)
▼ 移籍選手がランクCの場合
・補償不要
そして、「巨人のプロテクトリストを大予想!」といった見出しでスポーツメディアをにぎわせるのが「獲得制限」だ。外国人選手、直近のドラフトで獲得した新人選手の他、FA宣言選手の移籍先球団がプロテクト(保護)した28人の選手は人的補償の対象にはならない。
ちなみに、このオフの巨人のように複数名のFA宣言選手と契約した場合は、それぞれの前所属球団に異なるプロテクトリストを提示できる。また、複数の前所属球団が指名する人的補償選手が重複した場合には、移籍先球団と同じリーグの球団が優先され、前所属球団が同じリーグの場合には同年度の勝率が低い球団が優先されるという規定だ。巨人からプロテクトリストを受け取った広島と西武が人的補償に指名した選手が同じだった場合、広島が優先されるというわけだ。
プロテクトリストから漏れる選手の多くは当然、まだ実績がない若い選手や、逆に選手生命の終わりに近づいているベテラン選手たち。しかし、FA宣言した選手の前所属球団から見れば、若く才能にあふれた「掘り出し物」が含まれていることも決して少なくない。2013年オフ、大竹寛(巨人)の人的補償として広島へ移籍し、今やチームに欠かせない中継ぎ陣の中心選手に成長した一岡竜司などはその代表格と言えるだろう。
FA移籍された側のチームにとって、そんな掘り出し物を見つけることができれば、高年俸の選手を放出して才能豊かな若手を手に入れたと見ることもできる。人的補償に注目が集まるのも必然と言えるだろう。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)