コラム

“還暦の指揮官”原辰徳の不退転の決意

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入団会見を行った炭谷銀仁朗と原辰徳監督 (C) KYODO NEWS IMAGES

白球つれづれ2019~第2回・返り血覚悟の大補強


 新年早々、原・巨人に逆風が吹いている。昨秋に監督就任以来、怒涛の大型補強。FAで広島から丸佳浩、西武から炭谷銀仁朗を獲得したばかりか、さらにオリックスを自由契約となった中島宏之に、メジャーリーガーの岩隈久志まで、オールスター級の選手を根こそぎ持ってきた感すらある。当然、これだけの補強を行えば「返り血」も覚悟のうえ。しかし、FAの人的補償が西武に内海哲也、広島に長野久義とあって、巨人ファンの中にもこの放出劇に不満を抱く声が上がっている。かつてのエースと主砲。しかも2人とも巨人入りに際しては他球団の誘いを断り、長野の場合はドラフト指名を拒否してまで初志を貫いた経緯もある。ファンばかりかチーム内の動揺も少なくないという。

 こんな批判を一身に浴びているのが4年ぶりに監督復帰した原辰徳だ。現場の指揮ばかりかチーム編成までを一任される全権監督。ビッグネームの獲得も、それに伴う人材流失も原の決断なしには考えにくい。

 「勝負の世界は足し算ばかりではない。引き算もある。(内海、長野の移籍は)心境的には残念だが、ルール上は仕方ない」年明けのイベントやテレビ出演などで原は苦渋の決断をこう説明する。個人的にはプロ野球がファンあっての興行でもあり、足し算と引き算だけでない感情という部分もあるとは思う。だが、一方でメジャーの補強策などを見れば、昨日の我がチームのヒーローが、翌日にはライバル球団に移籍など日常茶飯事だ。日本球界もFAが当たり前の時代だけに感情論だけが盛り上がるのも、違和感がある。

 昨年暮れに、原の野球殿堂入りを祝うパーティーが行われた。安倍首相をはじめ政財界から野球関係者まで一堂に会する席は監督就任直後でもあり、さながら「原・巨人激励会」の様相を呈したものだ。この中で挨拶に立った巨人OBであり、現ソフトバンク球団会長の王貞治の言葉が興味深い。

 「決断ができる監督。時に悪者になることをいとわず、思い切って信念に基づいて指揮を執ってきた。それだけは変えないで自分の思うとおりにやって欲しい」。まさにその後の内海、長野の放出を暗示するような原の人物評である。


思わぬ逆風にも…


 過去、2度の監督時代に7度のリーグ優勝と3度の日本一に輝く名将。前任の高橋由伸時代を含む4年連続V逸に沈む名門球団の再建を託すにはうってつけの人材だろう。原と言えば現役時代の代名詞は「若大将」であり、華やかなイメージの選手だった。しかし、監督になると厳しさと激しさを併せ持つ勝負師の側面が色濃くなる。それは三池工、東海大相模で高校野球日本一を成し遂げた父の貢から受け継いだDNAと、原の入団時の指揮官である藤田元司から学んだ辛抱と将としての信念がバックボーンにあるからだ。

 久々に復帰した巨人を見れば、改革に着手しなければならない部分ばかりが目につく。リーグ3連覇を許す広島と比較しても投手陣の層の厚さ、攻撃面でも長打力、機動力共にその差は大きい。菅野智之、山口俊に続く先発陣の名前が出て来ない。岡本和真の成長は頼もしいがそれに続く若手の主軸クラスも欲しい。小林誠司に全試合のマスクを託せるか? 優勝争いには必須のセンターラインの強化は? かつての鈴木尚広のような走塁のスペシャリストの育成は? こうした問題点を洗い出した結果が今回の超大型補強にたどり着く。

 ここからは独断だが、内海と長野の実績と人望は評価してもこの数年の働きは主力級には程遠い。ならば、チームに危機感をもたらし、活性化を促すには生え抜きの功労者を出してでも大手術することが必要と原は決断したのではないだろうか。

 元々、巨人というチームは華も毒もある軍団だ。落合博満、清原和博、広沢克己、江藤智ら他球団の主砲を豊富な金銭力と人気球団の看板でかき集めてきた。アンチ党からすれば憎らしいほどの補強策。近年もFAによる強化は続いてきたが勝たなければ華にはならない。待ったなしの勝負の時。還暦を迎える名将は思わぬ逆風をどう乗り越えていくのだろうか?


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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