2019.04.30 14:00 | ||||
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白球つれづれ2019~第17回・五十嵐亮太の恩返し~
これぞ「拾い物」と言わずして何という。ヤクルトのミラクル男・五十嵐亮太が、また白星を掴み取った。
29日の広島戦(神宮)で同点の5回に先発・石川雅規を救援すると2イニングを無安打の好投、すると打線が奮起して逃げ切った。翌30日には同点で迎えた9回に4番手としてマウンドに上がると、四球による走者を出したものの無失点でしのぎ、チームは直後の10回表に勝ち越し。今季無傷の5勝目はチームの勝ち頭ばかりか、広島・床田寛樹、巨人・山口俊といった先発陣の4勝を上回りリーグのハーラートップに躍り出る活躍だ。
昨年11月4日。ソフトバンクに衝撃が走った。前日に日本シリーズを制して美酒に浸ったのもつかの間、大量8選手に戦力外通告が行われた。2014、15年には中継ぎとして“勝利の方程式”に貢献。黄金期の礎を築いたものの、近年は椎間板ヘルニアなどの故障に泣かされて成績は低迷、チームの若返り方針もあって退団が決まった。
そんな手負いの39歳に救いの手を差し伸べたのが古巣のヤクルトだった。すぐに五十嵐の身辺を調査して獲得にゴーサインが出されたのは12月のこと。
チームにとっては経験豊富な中継ぎ投手は何枚でも欲しい。加えて、今季から一軍の選手登録が28人から29人に増員されたことも五十嵐獲得を後押しした。年俸は3億6000万円から2000万円に超大幅ダウンも、現役続行を決めていたので迷いはない。入団時に球団社長の衣笠剛は「松坂のようなイメージ」と語っている。17年オフに同じく戦力外となった松坂大輔は中日に移籍。年俸は4億円から1500万円まで下がったが昨季は6勝をあげてカムバックした。このままいけば五十嵐は松坂以上の「拾い物」となりそうだ。
ヤクルトを支えるベテランの味
「白星はたまたま。いいところで打線が打ってくれるからね。ともかく、チームの勝利に少しでも貢献出来たらいい」と無欲のリリーバーだが、現在のヤクルトの好調は強力打線と救援投手陣が支えていると言っても過言ではない。
青木宣親、山田哲人にW・バレンティンと並ぶ打線の破壊力はリーグ屈指、2年目の村上宗隆の成長も心強い。だが、前述の石川や小川泰弘、原樹理、D・ブキャナンらで編成する先発陣は安定感を欠いている。その分を補っているのがリリーフ陣でチーム16勝(4月30日現在)の半数近くを稼いでいる。この現実を見ても五十嵐の獲得は大成功と言えるだろう。
かつては150キロ超の快速球を誇ったが、今では技巧派に転身、2010年からはメジャーに挑戦し、メッツを皮切りにヤンキースら4球団を渡り歩いた。その経験からカットボールやフォークボールに活路を見出している。ヤクルトでは昨年から近藤一樹、D・ハフ、石山泰稚で編成する「勝利の方程式」が確立されており、五十嵐の「職場」はゲーム中盤に限られる。先発陣が打ち込まれて1~2点のリードを許す展開や同点など気の抜けない場面が多い。若手には荷の重い状況を克服できるのは、数々の修羅場を潜り抜けてきたベテランの味というものである。
それにしても、今季のヤクルトは移籍組の活躍が目立つ。五十嵐だけでなく、日本ハムからトレードで獲得した高梨裕稔がすでに2勝、五十嵐のソフトバンク時代の同僚で同じく戦力外通告を受けてヤクルトにやってきた寺原隼人も移籍初勝利を早々に上げている。彼らがいなければチームの現在の位置もなかっただろう。
同じ補強でも巨人がFAや大物のトレードで30億円補強と呼ばれたのに対して、こちらは戦力外や意外な掘り出し物を見つけてくる。潤沢な資金力とはいかない部分を補っているのは「貧者の知恵」か? この5月には40歳を迎える中継ぎの五十嵐が目立ち過ぎるのもチームにとって健全とは言い難い。だが、古巣への恩返しを誓う右腕が混セを演出しているのも、また事実である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)