白球つれづれ2019~第20回・足掛け2年の大記録~
いかにも地味な記録達成の瞬間だった。5月16日に横浜で行われたDeNA対中日戦の7回、E・ロメロの打球が二塁に転がる。難なく処理した中井大介から送球されたボールを一塁のJ・ロペスがキャッチしてアウトにした瞬間、足掛け2年に及ぶ偉大な記録が達成された。一塁手の連続守備機会無失策を「1517」として、榎本喜八(当時東京、現千葉ロッテ)の持つ日本記録を51年ぶりに塗り変えたのだ。
その瞬間は球場が沸くわけでもなく、ベンチに戻るときに記念のボードを渡されて初めて盛大な拍手が送られた。
最初から守備の名手だったわけではない。2013年に巨人に入団、その年こそ、いきなりゴールデングラブに輝いたが、翌年以降「8」、「10」と失策数は増えている。太腿に故障を抱えていたり、DeNAへの移籍など肉体、精神両面で悩みを抱えていたのも要因だろう。しかし、17年8月の中日戦からずば抜けた守備力を発揮して昨年はついに守備率10割(つまり無失策)。この3年間はゴールデングラブ賞の常連になった。
三塁手は強肩、遊撃手は華麗、二塁手は堅実など内野の各ポジションは守りでもスポットライトを浴びる機会は多いが、一塁手の守りが注目されることは少ない。一昔前なら守備に最も不安のある選手が起用されるほどだった。
だが、かつて名一塁手としても鳴らした王貞治(巨人、現ソフトバンク球団会長)が、そんな声に異を唱えたことがある。
「守備機会は多いし、高度なサインプレーも求められる。決してやさしいポジションじゃないんだ」
たしかに、内野ゴロの捕球だけじゃない。投手、捕手からの牽制球もある。バント処理から内外野との連係プレーなど守備機会は全野手の中でも飛びぬけて多い。それを1500回以上も無失策でこなし続けているのだから、ロペスのプレーは賞賛に値する。
日本向きの性格と勤勉さ
「外国人選手はともすれば打撃ばかりに気持ちが向きがちだが、彼は守備への意識も高い。非常にグラブさばきもうまいし、堅実ですよ」と評価するのはヘッドコーチの青山道雄だ。キャンプでは早出の特守もこなし、その姿勢を「非常に日本向き」と語る。
ロペスのメジャー初昇格は2004年のこと。シアトル・マリナーズにはあのイチローがいた。同年にはシーズン258安打の最多記録をチームメイトとして目撃した。当時の本職は二塁手だから、この経験が一塁の堅実な守備に生かされているのだろう。
来日して7年目、本拠地で試合が行われる際は電車も利用する。チーム内では精神的な支柱であり、首脳陣からチームメイトまで絶大な信頼を寄せられている。一昨年には打点王に輝くなど、勝負強い打撃に加えて、コツコツと練習を繰り返し、記録を積み上げていく勤勉さもある。だからファンに愛される。
「意識せずプレーしてきた。いつかはエラーすると思うけれど、これからも少しでも多く(記録を)更新していきたい」
最下位にあえぐチームも直近のヤクルト戦に3連勝。しかもエース・今永昇太にルーキーの上茶谷大河、故障明けの浜口遥大と先発投手陣の活躍が反撃の好材料となる。宮崎敏郎から筒香嘉智、ロペス、ソトと続く中軸打線はいずれも打撃タイトル保持者の破壊力を誇る。
投手陣だって質量ともに豊富、これでテールエンドにいることがおかしい。開幕直後、泥沼に沈んだ広島はわずか2カ月足らずで首位をうかがうまでに戦力を立て直した。ベイスターズにもそれだけのチーム力はある。ロペスの守備同様、コツコツと白星を積み上げることだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)