連載『原・巨人よ、どこへ行く?』~第4回~
案の定というべきか? 7月を前に原巨人が激しく動いた。まずは新外国人として、ダイヤモンドバックス傘下の3Aからルビー・デラロサ投手を獲得。さらに26日には、日本ハムに吉川光男投手、宇佐美真吾捕手を出して、鍵谷陽平投手、藤岡貴裕投手を同球団から獲得する2対2の緊急トレードを発表した。
交流戦を3位で終え、2014年以来となる5年ぶりの勝ち越し。この間の貯金4は、まずまず及第点と言えるだろう。しかも戦前は上位にいた広島、阪神が揃って失速、その結果として首位に返り咲いた。だが、指揮官に満足感はない。勝てば優勝の対ソフトバンクとの大一番。エース・菅野智之が2回と持たない乱調で自身最速のKO負けに加え、故障者続出のソフトバンクに底力を見せつけられては、力不足を痛感したに違いない。
「大一番に力を発揮できる選手を、この数カ月で作っていくことが新たな課題として見つかった。修羅場、山に向かっていくということをしないとダメ」と交流戦後の決意を語った。
確かに今村信貴や桜井俊貴らの若手先発陣に使えるメドが立ちつつある。野手では2年目・若林晃弘の活躍が光った。チームの若返り方針は順調に進んでいるように見える。だが、一時の勢いや他球団の研究が進みメッキがはがれてしまう程度の力量では、勝負所で使えない。腰痛に始まった菅野の変調は、もちろんお家の一大事に違いないが、それに次ぐ第2、第3の先発陣の強化を果たしたい。中継ぎから抑えも、まだまだ試行錯誤が続く。
勝利至上主義の下に
信頼はするが信用はしない。指揮官は春先から「勝利至上主義がチームの輪を作る」と力説する。
開幕直後から主将の坂本勇人にもバントのサインを出した。盤石の信頼を置く菅野だって、完調でなければマウンドから引きずり下ろす。すべてはチームの勝利から逆算された用兵だ。今季は一、二軍の選手の入れ替えを頻繁に行っている。
監督復帰以来、二軍との連携を密にして全員で勝利のために戦うという意識を高め、ファームから昇格した選手はすぐに起用、結果が出ない選手には、課題を明確にして再調整に送り出す。ベテランにも、外国人選手にも同じ姿勢を貫くことで「勝利至上主義」を自覚させる狙いがそこにはある。
4年ぶりの現場復帰。全権監督として原の仕事は多岐にわたる。現場の指揮はもちろんのこと、トレードの画策にも、新たな補強策にも知恵を絞る。加えて監督を補佐するコーチ陣も新任が多く、彼らを育てていくのも重要な仕事だ。
試合中のベンチ内をうかがうことは出来ないが、テレビ画面を見る限りは投手コーチの宮本和知や打撃兼外野守備コーチの後藤孝志らが監督の指示に右往左往の姿も見受けられる。それでも、監督にあたふたした様子はない。むしろ、久々の現場と勝負を楽しんでいる風ですらある。
手腕が問われる後半戦
交流戦の最中、西武OBの石毛宏典と打撃ゲージ横で10分近く話し込んでいたことがある。戻ってきた石毛は開口一番こう言った。
「いやぁ、余裕があるね。やはり、長い間、監督をやってきた人だから(戦術、用兵の)引き出しも多いし、どっしりしているのはさすがですね」
開幕直後から露呈した「打高投低」のチーム事情は依然、不安材料として残る。大黒柱の菅野の不調が長引くようだと、さらに窮地に陥る。他球団との戦力を比較しても、すぐに独走とは行かないだろう。
長いペナントレースに浮き沈みはつきものだ。それにも一喜一憂することなく、勝負どころの9、10月「秋の陣」までに、勝負強い戦士を何人作れるか? 名将の腕の見せ所はこれからが本番である。【この項、終わり】
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)