白球つれづれ2019~第31回・我慢の限界~
本格的な猛暑到来。野球界でもこの時期に体調を崩す選手は多い。故障にコンディショニング不良、それがそのままチームの浮沈に直結するから首脳陣も頭が痛い。中でもここへ来て惨状を呈しているのが西武だ。
4日現在、50勝48敗1分けは、首位・ソフトバンクから5ゲーム差の4位ながら、2位の日本ハムとは2.5差、3位の楽天とはゲーム差なし、まだまだペナントをあきらめる位置ではない。昨年のリーグ覇者としては、ここから底力を発揮したいところだ。
しかし、故障者の続出がチームの先行きに不安を募らせる。直近だけでも金子侑司が右大腿骨骨挫傷、十亀剣は腰痛で戦列離脱。さらに源田壮亮が右ハムストリングの張り、中村剛也は右足甲の痛みで先発メンバーから外れ、昨年の最多勝の多和田真三郎は不調で再びファームに逆戻り。盗塁王から攻守の要から先発ローションの主軸までが短期間で前線から消える現状を考えれば、それでもよくこの位置で踏ん張っているとも言える。
打線は両リーグ屈指の破壊力と得点力を誇るが、投手陣は12球団でも最低クラスの脆さを抱えている。昨年からこの特徴は変わらないが、戦力は大幅にダウンした。
菊池雄星のメジャー移籍、浅村栄斗が楽天に、炭谷銀仁朗が巨人にそれぞれ移籍。それを補う補強を見ると、ドラフト1位で獲得した松本航と助っ人のニールが現状5勝をマークしているが、炭谷のFA人的補償で巨人からやってきた内海哲也は未だに一軍のマウンドに上っていない。昨年はシーズン直前で阪神から獲得した榎田大樹が11勝(4敗)と望外の働きを見せて優勝に貢献したが、今年はそんな孝行息子も現れそうにない。
主将と4番への期待
「今年は我慢の年」と春先から辛抱を口にする指揮官の辻発彦。自他の戦力を見比べながらある程度の苦戦は想定内、それでも相手のスキを突いて活路を見出すのが辻流のしぶとさだ。
先月末のソフトバンク戦前に取材をすると、相変わらず「我慢」を強調しながらも、「それにしても投手陣がもう少し踏ん張らないと」とさすがに不満の色を浮かべた。そのソフトバンクとの3連戦、本拠地の勢いも力にして幸先よく2勝したが、3戦目にチームの弱点を露呈する。壮絶な打撃戦でリードするも最後は救援陣が踏ん張れずに10対11で惜敗。首位肉薄のチャンスを失った。
機動戦士の破壊に、相も変わらぬ投壊に加えて更なる不安材料もある。看板選手である山川穂高と秋山翔吾のブレーキだ。本塁打と打点争いでトップを走る山川だが、7月の月間打率は.172と低率に喘ぎ本塁打もこの間は4本止まり。球界屈指の安打製造機である秋山も同じく月間打率.229とバットは湿りっぱなし。ようやく4日のオリックス戦で両雄共に一発が飛び出したが、これで復調となるか? 4番と主将。打ち勝つしかないとなれば、打席での余計な力みも生みかねない。それが不振の一因となっているなら気になる兆候ではある。
西武と言えば、秋山幸二、清原和博、工藤公康の黄金時代からFA移籍による戦力ダウンの苦渋を味わってきた。近年でも岸孝之(楽天)、野上亮磨(巨人)、牧田和久(米パドレス傘下)ら枚挙にいとまがない。それだけ他球団が食指を伸ばす人材を抱えている証明でもあるが、逆に言えばそれら主戦力を引き止められない負の歴史を抱えている。
一部には、前オーナーの堤義明時代に清原や松坂大輔を偏愛したため、嫌気をさした選手がいたと指摘するむきもある。本社である西武鉄道の不祥事から株式再上場までの間、チーム補強に動きが鈍った時期もある。
「我がライオンズは、これくらいで弱体化するほどヤワなチームではない」
今春、相次ぐ主力選手の流失と戦力ダウンが指摘された時、オーナーの後藤高志はこう言い放っている。この夏を前に新練習場と新選手寮も完成して新たな時代のスタートを切った。かつての黄金期を知るファンなら、今度はチームの大補強を願っている。それが出来なければライバル・ソフトバンクとの差は広がるばかりである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)