短期連載:真夏のミステリー?
令和初の夏の甲子園大会が閉幕した。
決勝で履正社(大阪)に敗れたとはいえ、今大会の主役は何といっても星稜(石川)の奥川恭伸投手だろう。中でも3回戦の智弁和歌山(和歌山)戦は、延長14回タイブレークの末に星稜がサヨナラ勝ち。150キロ台の快速球と精密機械のコントロールで奪った三振は23個、歴史に残る名勝負に球場が揺れ、拍手は鳴りやまなかった。
第3回:急増したフェアプレー?
今大会を後に検証した時、「フェアプレーの大会」と位置付けることが出来るだろう。始まりは2回戦に登場した花咲徳栄(埼玉)・菅原謙伸選手の意外な行動だった。7回、明石商(兵庫)の中森俊介投手が投じた変化球が肩に当たったかに見える。判定はデッドボール。だが菅原は一塁に向かわず、「少し前かがみでよけてしまった。自分が悪い」と球審らに謝罪、そればかりか、次の投球を左翼席に叩き込んで見せた。
この奇跡の本塁打は、野球の本場・米国でも話題を呼び「フェアプレーの象徴」として映像が流れた。
まだある。準々決勝の星稜対仙台育英(宮城)戦でも星稜の先発、荻原吟哉投手の手首がつりかけると、仙台育英の小濃塁選手がマウンドまで駆け寄ってスポーツドリンクを渡した。試合後、小濃選手は「相手があって野球が出来ている」と語り、同校を率いる須江航監督も「グラウンドに敵はいない」と常日頃の教育の一端を明かしている。
様々な問題を考える契機に
甲子園を美談のオンパレードにするつもりはないが、令和の高校野球に貫かれるフェアプレーの精神。きっかけは春のセンバツ大会にあった。
この大会で準優勝に輝いた強豪・習志野と対戦した星稜・林和成監督は、相手のサイン盗みを疑って抗議、試合後にも習志野の控室に乗り込む騒動に発展した。この事件、結果は嫌疑不十分として習志野にお咎めはなく、逆に週刊誌等の取材を受けて騒ぎを大きくした林監督は春の2カ月間、指導自粛となった。しかし、これを契機に高校野球の原点であるフェアプレーの意義が再確認されることになったのだ。
塁上の走者が打者に球種やコースを教える紛らわしい行為は、これまでも当たり前のように繰り返されてきた。テレビ画面を見ていると打者が横目で捕手の構えを覗き見るカンニング行為も繰り返されてきた。それが、この夏からほとんど見られなくなったのは歓迎すべきことだろう。
今大会では予選レベルからサイン盗み等の行為を厳禁する通達が各都道府県高野連から出されている。甲子園でもバックネット裏から複数の大会本部員によってマナー違反がないか?チェックが続けられた。
日刊スポーツ紙の連載『野球の国から 101回目の夏 フェアプレー考』によれば、大会審判副委員長の窪田哲之氏は、「勝ちたいがためのアンフェアなプレーはもうやめましょう。高校野球からなくしましょう」と、抽選会後の監督会議で訴えたという。
勝利至上主義からの脱却。選手ファーストの運営。時代とともに高校野球も変わっていかなければならない。すでに甲子園に出場する強豪校の指導者で意識改革の必要性を訴える者もいる。突如、多発したかにみえるフェアプレーの甲子園だが、こうした積み重ねの上に成り立っている。来年以降はそんな光景に驚くことなく、当たり前になっていることを願うばかりだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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※大会審判副委員長の窪田哲之氏のコメントは日刊スポーツ紙の紙面より引用されたものであり、その記載がございませんでした。訂正してお詫び致します。失礼いたしました。(2019年8月29日)