笑顔の効果
「ミラー・ニューロン」――。
脳内の働きで、「他人の動作や感覚を認知すると、自分自身も反射的に同じ動作や感覚を感じ取ってしまう」細胞の名前だ。笑顔の人を見たことによって、周りにも笑顔が伝染したりするのは、この“ミラー・ニューロン”の効果によるものだという。
暗いよりはいいかな」と、えくぼをへこませながら語るベイスターズのユーティリティプレーヤー・柴田竜拓は、“ミラー・ニューロン”効果で周囲に笑顔を伝染させる存在だ。
象徴的だったのが8月17日、キャプテンの筒香嘉智が200号ホームランを放ちチームも快勝した試合後、貴重な追加点となるホームランを打った柴田へ、「通算6号ホームラン」と記された“お手製のプレート”が送られた場面。愛されキャラでならではのハートウォーミングな一幕で、チームに笑顔の花が咲いた。
ワンランク上の“チームのために”
そんな柴田の役割は多岐にわたる。守備では、セカンド、ショート、サードと複数のポジションをこなし、もちろんスタメンの機会もある。難しい要求の中、柴田は“チームのためになるプレー”を考え、練習に打ち込む。
特に定評のある守備面では、難しいボールを平然とさばくようにしている。そういった姿を見せることで、「ピッチャーのメンタルを落ち着かせる」ことが狙いだ。自分自身の「限界を定めない」ことで、さらなる高みを見据えている。
課題と言われている打撃面でも、オープンスタンスを取り入れるなど「自分にあったものを求めて、より良くなるように積み重ねる」努力を欠かさない。168センチと小兵ながら、交流戦ではホークスのエース・千賀滉大のツーシームをスタンドへ放り込むなど、パンチ力もある。
しかし、「柳田さんだって追い込まれたらポイントを近くしてレフトへ打ちますからね」と、同じ左バッターを参考にした上で「困ったときにレフト前に打つ技術」をモノにするべく練習に取り組んでいる。
さらに、「粘って追っ付けてヒット」を打つことで、「ピッチャーに嫌な残像を残すことで、あとのバッターが優位になる」ことや「きれいに打たれたときは切り替えも楽。追い込んでから落とされると守っている方はイヤ」と、ここでもチームを念頭に置いている。
常にポジティブに
ベイスターズは不動のサード・宮崎敏郎をケガで欠いている。しかし「仕方のないこと。いるメンバーみんなで前向きに」戦っていると意に介していない。代わって上がってきたルーキー・伊藤裕季也に対しても、「いい刺激になる。自分も上手くなれるチャンス」と、物事を常にポジティブに捉える。
その姿勢は結果にも結び付きはじめた。25日の巨人戦ではファインプレーを連発し、今永を援護。バットでも28日、延長12回裏にヒットで出塁し、サヨナラのホームを踏んでいる。29日には3安打2打点の活躍で、決勝点も演出。8月の月間打率は「.417」となり、努力は確実に実を結んでいる。
悲願となっている21年ぶりの優勝へ向け、負けられない戦いが続くベイスターズ。柴田はプレーでも笑顔でも、チームに好影響を与え続ける。秋にチーム全員が、そして横浜の人たちが“笑顔”でいられるように――。
文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)