短期連載:真夏のミステリー?
パ・リーグのペナントレースが史上まれに見る混戦模様を呈している。
29日終了時点(以下同じ)で首位を行くソフトバンクと、これを猛追する西武の図式に変わりはないが、クライマックスシリーズへの進出をかけた3位争いに目を向けると、楽天から最下位のオリックスまで3.0ゲーム差。この中に4チームがしのぎを削っているのだからファンも目が離せない。
「混パ」の陰の立役者はロッテだ。8月23日から本拠地のZOZOマリンで行われたソフトバンクとの3連戦に3連勝。このカード15勝6敗で早々に勝ち越しを決めた。一時は独走気配でマジック点灯も秒読みと目されたソフトバンク叩きは、今後の展開を面白くする意味でも殊勲の戦いだった。
第4回:急増した本塁打
今季のロッテの戦いを見ていくと本塁打の急増ぶりが顕著である。チーム総計は142本。昨年が12球団最少の78本塁打だったことを考えると驚きの量産ぶり。ちなみに千葉移転後の最多本塁打は2003年の145本だから、その更新も秒読みだ。では、大変身の裏に何があったのか?
真っ先に指摘されるのは、今季から新設された「ホームランラグーン」と、日本ハムから獲得した「ブランドン・レアード」の存在だ。
外野の左右両翼を最大で4メートルほどグラウンド側に拡張した「ホームランラグーン」によって、本塁打の出やすい球場に生まれ変わった。もちろん、ここまで31ホーマーを記録しているレアードの長打力も大きく貢献している。だが、球界関係者の中には第3の要因を指摘する声が多い。それが戦略室の新設である。
「戦略面も含めて本塁打数が増えている。絞り球を自分たちで決めてスイングが出来ている。狙い球を決めた結果、積極的に振れているのが大きい」。指揮官・井口資仁の発言に今季ロッテ打線の変貌がある。
変貌を遂げた打線
監督ら現場組の肝いりで誕生した戦略室。これまでもスコアラーや各種データからもたらされる情報は戦いに生かされてきたが、さらに精密、細分化した情報を現場と共有してチーム強化に繋げようというもの。もちろん、トレードやドラフト、外国人の動向などに関する資料も整理される。人材も前東北楽天のスコアラーだった行木茂満らを迎えて質量ともにグレードアップした。
仮に次の対戦カードがソフトバンクで、予告先発が千賀滉大だとする。捕手は甲斐拓也。千賀の持ち味は160キロ近い剛速球とお化けフォーク、そこにスライダー、カットボールを織り交ぜる。そこで打者は速球にいかに打ち負けないか?フォークにどう対処するか?に腐心する。
だが、序盤・中盤・終盤で配球に変化や特徴はないのか?小兵とパワーヒッターに対する攻め方の違いは?塁上に走者がいる時の配球の傾向は?カウント別でどんな料理の仕方をしてくるのか…?
様々なデータを分析して、試合前に入念なミーティングが行われる。その結果、各打者が狙い球やケース・バイ・ケースの打撃を整理して試合に臨むようになった。これが、本塁打量産の大きな要因ともなっているというわけだ。
昨年2本塁打の荻野貴司は10本、同じく8本塁打の鈴木大地が15本、中村奨吾も昨季の8本塁打からすでに15本のアーチを量産している。荻野と鈴木は打率でもベストテンに名を連ねる。一発だけでなく打撃自体が見事な変貌を遂げている。
一日ごとに順位が目まぐるしく変わる混戦パ・リーグ。28日の楽天戦では、井口が監督就任以来、初めてのスクイズを敢行して勝利につなげる。「残り試合を考えればそういう作戦もある」と、Aクラス進出に鞭をいれた。ロッテがポストシーズンに進出してくるのを最も恐れているのは、王者・ソフトバンクに違いない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)