短期連載:タイトルを狙う男たち
9月に入り、ペナントレースも残りわずか。チームの成績と同時に、個人成績も最後の勝負時期に差し掛かっている。
時には故障やスランプに悩みながら、1年間のロングレースを制するのは誰なのか…?ここでは個人タイトルを目指す男たちの戦いに視点を当ててみる。
第1回:天才・森友哉が追い求める高み
8月30日のソフトバンク戦試合前のことだった。
「あいつ(の打撃)は天才だよ。本当によく頑張っている」
直前の日本ハム戦では3連戦・3連勝、首位に肉薄するチームの中心に森の存在があった。この夜の直接対決第1ラウンドでもサヨナラ本塁打。打ち出の小槌のように安打を量産し、9月6日の試合前時点(以下同じ)の打率は.337で堂々のトップ。21本塁打、92打点もキャリアハイの好成績で、12球団でもナンバーワンの強打の捕手に成長した。
このまま首位打者に輝けば、パ・リーグの捕手としては1965年の野村克也(南海)以来。実に54年ぶりの快挙は目前だ。
圧倒的な打撃術と「捕手のやりがい」
大阪桐蔭高時代には、1年の秋からレギュラー捕手の座を手に入れた逸材。その後は藤浪晋太郎(現・阪神)とのバッテリーで全国制覇を果たすなど、順調な成長を見せて2013年ドラフト1位で西武に入団。1年目から41試合の一軍出場を記録して6本塁打と大器の片鱗をのぞかせた。
しかし、その打撃センスの良さが時に災いとなる。代打や外野手としての出場が増え、捕手の出番はわずかしかない。何せチームには日本代表にも選出される炭谷銀仁朗(現・巨人)がいた。
「入団して2~3年目の頃は『試合に出られるならポジションはどこでもいい』という思いがあった。でも去年、キャッチャーとして出番が増えると、やはり捕手にやりがいを感じた」(今春のインタビューから)
実は昨年の時点でチームは森の捕手としての出場機会を増やし、打線との兼ね合いや投手陣との意思疎通をテスト。もちろん、炭谷のFA流失の可能性も踏まえたうえでの周到な準備が、今季の大ブレークにつながった。
森の打撃術はチームの中でも群を抜いている。170センチの小柄な体をさらに低くして構える独特なフォームだが、スイングスピードが速いうえに高めのボールに滅法強い。加えて内外角を打ち分ける器用さと勝負強さも兼ね備えている。得点圏打率は4割近くをマーク。さらに対右投手に.342、左投手にも.325の打率を残している。記録から見ても死角を見つける方が難しい。
指揮官も「大したもの」
森の評価を高めているもう一つの要因がある。リーグワーストの弱体ぶりを露呈する投手陣をリードしながらの打撃。これは想像以上に厳しい。
『何でこんなに打たれるのか?』『自分のリードが悪いのか?』…。自問自答しながらの毎試合は精神的にも肉体的にもきついものだが、それを攻守で切り替えられるのが、この24歳の若者が持つ凄みだろう。
「あの投手陣をリードするのだから大変だし、疲れもある。それをはねのけてあれだけの数字を残すのだから大したものだよ」と語る辻は、自身が初めてレギュラーとして全試合出続けた体験談を森に話したと言う。
「心も体もきつかったけれど、その経験が必ず2年目以降に生きて来る」
パ・リーグの打撃タイトル争いに目を向けると、西武勢の独占状態である。打率の森に本塁打の山川穂高。打点はその山川と僚友・中村剛也がハイレベルな戦いを展開中で、最多安打は秋山翔吾が快走する。
今後はリーグのMVP争いも話題になってくることだろう。現状はソフトバンクが優勝すればエースの千賀滉大が有力だろうが、西武勢から選ばれてもおかしくない。その場合の大本命は森と予想しておこう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)