フォームはあえて固めない!?
DeNAのドラフト1位ルーキー・上茶谷大河は、しなやかな思考の持ち主だ。
「ずっと同じフォームで固めるのが普通だと思うんですけど、それにはこだわらない」。フレキシブルな調整力が、上茶谷の特徴のひとつ。
「自分の中で変えたことは、高校時代からメモに残してある」と、長年に渡り蓄積された“引き出し”から、「グローブの位置や、左肩の開き、膝の使い方」などを探し当て、「見た目にはわからない」程度の微調整を経て「その日のベストのフォームを作る」ことを可能にする。
開幕から5カ月が経った今でも「登板日は緊張してソワソワする」との言葉とは裏腹に、冷静な自己分析と経験則に基づく“上茶谷メソッド”を駆使して、フォームのメカニズムを調整する。完成度の高いルーキーの秘密の一端がここにある。
重要な2つの存在
昨年のドラフトでは、東洋大学から異例の4名が指名された。「LINEなどで連絡取ってます」と、今でもいい関係を続けている。
同じピッチャーのホークス・甲斐野央と、ドラゴンズ・梅野晃大とは「お互いわからないことを聞きあったり、いい相談相手」で、野手のバファローズ・中川圭太には「バッター目線の立場でアドバイス」をもらう「刺激になる」ライバルでもあるという。かつてのチームメイトも重要な存在だ。
そしてもうひとつ。上茶谷にとって重要なのが「ファン」の存在だ。大学生時代の昨年、横浜スタジアムに観戦に訪れた際に衝撃を受けた。その思いは今も変わらない。「同じ印象。スタンドで見た康晃ジャンプと、ベンチから見る康晃ジャンプ、どちらから見ても鳥肌がたちます」と、ベイスターズファンの熱い応援が力になっていることを強調する。
それを示すように、本拠地の横浜スタジアムにおける上茶谷の成績は、5勝1敗、防御率2.56という好成績。自身も「ファンの声援が結果につながっている。バッターボックスでもやりやすい」と、感謝する。
右のエースとして
チームは21年ぶりとなるリーグ優勝に向けた戦いの真っ只中。上茶谷自身も「前半戦とは違う緊張感」の中に身を置いている実感がある。しかし、「勝利に貢献したい気持ちはもちろんですが、自分の投球をきちんとして、それにより勝利へ導ければ」と、あくまで自分に課されたものをクリアすることに重きを置く。
開幕から一度の抹消はあったものの、ローテーションをほぼ守り抜き、チーム内での投球回数はエース・今永昇太に次いで2位。球団としての新人記録の6連勝をマークし、カード頭や中5日も経験した。いまや“右のエース”とみる向きもあるが、それには「いやいやいやいや!」と、一際大きなリアクションで全力否定。常に謙虚な姿勢を保ち、自分の現在地をしっかりと見つめている。
シーズン終盤の負けられない戦いが続く9月。絶好調だった6~7月に比べると、8月は厳しい投球も見受けられるが、熱いファンの声援と、経験に基づく調整力を武器に、チーム内の貴重な先発右腕としてローテーションの一角を担い、ベイスターズのラストスパートに貢献する。
取材・文・写真=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)