パ・リーグは4人だけ!
9月も半ばになり、いよいよ2019年シーズンも残りわずか。優勝争いやAクラス争いが熾烈を極めるなか、この時期になると個人タイトルの行方にも注目が集まってくる。
そんななか、個人成績を確認しようとしてみると、ある“異変”に気が付く。規定投球回に到達している投手が極端に少ないことだ。
最優秀防御率などのタイトルにも関わってくる規定投球回。チーム試合数と同じだけのイニング数がその要件となるため、今季は「143」以上でクリアとなる。現時点ではだいたい130~135あたりが目安となってくるのだが、9月13日終了時点で規定投球回に到達している投手はセ・リーグで9名、パ・リーグはなんと4名しかいないのだ。
パ・リーグの規定投球回到達者がこのまま4人で終わった場合、2リーグ制となった1950年以降で史上最少の記録となる。分業制が進む現代の野球の流れを考えると分からなくもない数字ではあるが、近年の推移はどうなっているのか調べてみた。
パ・リーグで顕著な傾向
検証したのは10年前(2010年)、5年前(2014年)と、今季の両リーグにおける「完投数」と「シーズン50試合以上登板した中継ぎ投手の数」。2019年の成績については、すべて9月13日終了時点のものとなっている。
<2010年>
▼ セ・リーグ
規定投球回到達者=12名
50試合以上登板した中継ぎ投手=18名
▼ パ・リーグ
規定投球回到達者=16名
50試合以上登板した中継ぎ投手=16名
<2014年>
▼ セ・リーグ
規定投球回到達者=15名
50試合以上登板した中継ぎ投手=14名
▼ パ・リーグ
規定投球回到達者=13名
50試合以上登板した中継ぎ投手=17名
<2019年>
▼ セ・リーグ
規定投球回到達者=9名
50試合以上登板した中継ぎ投手=17名
▼ パ・リーグ
規定投球回到達者=4名
50試合以上登板した中継ぎ投手=19名
こうして比べてみると、投手も打席に入るセ・リーグは大きな変化が見られないが、パ・リーグは目に見えて変化がある。中継ぎ投手の起用法はさほど変わっていないが、先発投手があまり長いイニングを投げなくなっていることがお分かりいただけるだろう。
新たなトレンドの弊害?
2010年のパ・リーグといえば、ダルビッシュ有や田中将大、和田毅といった後にメジャーリーグに挑戦する投手をはじめ、この3人との争いを制して沢村賞を受賞した涌井秀章など、各チームにいわゆる“エース”の存在があった。2014年も沢村賞投手の金子千尋、さらには大谷翔平らが規定投球回をクリアしている。
一方、今季のパ・リーグの各チームを見てみると、彼らに並ぶような成績を収めている投手がいない。それどころか、現時点で2ケタ勝利を挙げている投手も6名しかおらず、こちらも近年稀に見る少なさとなっている。この裏には、則本昂大をはじめとする各球団の主力投手に故障が出ていたことも大きいが、それを踏まえても寂しい数字なのは間違いない。
また、今季は本来リリーフの投手に先発を任せる“オープナー”と呼ばれる戦術や、リリーフ投手だけで試合をつくる“ブルペンデー”といった新たな流行がメジャーから入ってきたこともあり、1年間ローテーションを守れば到達できる“規定投球回”のハードルが高くなっていることが考えられる。
時代の流れ、と言ってしまえばそれまでなのだが、最優秀防御率の候補が5名以下となってしまうというのは明らかに異常事態だと言える。この傾向が続くようなら、いつの日か規定投球回の設定を考え直すという日が来るかもしれない。
文=福嶌 弘(ふくしま・ひろし)