痛すぎる主砲の離脱
ナ・リーグ中地区連覇を目指し、ここに来て上位猛追を見せているブリュワーズ。現地時間13日からは地区首位を走るカージナルスとの負けられない直接対決が幕を開けたが、大事な初戦は0-10で大敗。連勝も7で止まり、カージナルスとのゲーム差は「5」に広がってしまった。
この敗戦によって地区優勝はかなり遠のいたが、ワイルドカード2枠目をめぐる争いではカブスと1ゲーム差の好位置につけている。まだまだポストシーズンに向けた灯火は消えていないものの、やはりここ一番で大きな痛手となっているのが“主砲クリスチャン・イエリチの不在”だろう。
イエリチといえば昨季ナ・リーグMVPに輝いたメジャーを代表する強打者のひとりで、今季も打率.329(リーグ2位)、44本塁打(同3位タイ)、97打点(同11位タイ)という堂々たる成績をマーク。出塁率.429と長打率.671はともにリーグトップで、OPS1.100はメジャー全体で見てもNo.1という凄まじい活躍を見せていた。
しかし、そんな主軸打者が現地10日の試合で右ひざに自打球を当ててしまうと、なんと診断結果は骨折。今季中の復帰は絶望的と、ブリュワーズは負けられない最終盤でなくてはならない存在を失ってしまった。
離脱と引き換えに手にした記録も…
進化が止まらないイエリチだが、なかでも今季目を引いたのが走塁面の向上。特に盗塁の技術において劇的な成長を見せていた。
ケガで離脱をするまでに記録した盗塁は、キャリア最多を大きく更新する「30」。しかも、一方で失敗はたった2つだけ。盗塁成功率は.938という好成績を残している。
“盗塁死”という記録が残っている範囲で探してみると、シーズン30盗塁以上を決めて失敗が2回以下だったのはイエリチが11人目。過去の達成者は以下の通り。
▼ 30盗塁以上記録かつ失敗が2以下だった選手
1. マックス・キャリー(パイレーツ/1922年)=51盗塁/失敗2
2. アモス・オーティス(ロイヤルズ/1970年)=33盗塁/失敗2
3. ジャック・ぺルコンテ(マリナーズ/1985年)=31盗塁/失敗2
4. ブラディ・アンダーソン(オリオールズ/1994年)=31盗塁/失敗1
5. ダグ・グランビル(フィリーズ/1999年)=34盗塁/失敗2
6. カルロス・ベルトラン(ロイヤルズ/2001年)=31盗塁/失敗1
7. アルフォンソ・ソリアノ(レンジャーズ/2005年)=30盗塁/失敗2
8. イチロー(マリナーズ/2006年)=45盗塁/失敗2
9. デズモンド・ジェニングス(レイズ/2012年)=31盗塁/失敗2
10. ホセ・レイエス(ブルージェイズ/2014年)=30盗塁/失敗2
11. クリスチャン・イエリチ(ブリュワーズ/2019年)=30盗塁/失敗2
2006年にはイチローも達成したこの記録。実に半数以上が2000年以降に達成している。
今季中の復帰が絶望となったことでこの記録が当確になった、というのはイエリチにとって喜ばしいことではないかもしれないが、これもひとつの進化の証であることは間違いない。来季は故障を克服して、再び走攻守すべてでチームを牽引していくことが期待される。
また、イエリチが離脱したからと言って、ブリュワーズの2019年シーズンが終わるわけではない。苦しい状況であることは間違いないが、上でも触れているようにポストシーズンはまだ手が届くところにある。この逆境を力に一致団結して、昨季あとわずかのところで届かなかったリーグ制覇を掴むことができるか。最後まで目が離せない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)