ブルペンを牽引する存在に
DeNAのストロングポイントは、去年も今年も強力なブルペン陣だ。
昨シーズンは、12球団ワーストの「31.47%」というQS(クオリティ・スタート)率(※先発投手が6イニング以上を投げ、かつ自責点を「3」以内に抑えた割合)だった先発陣を、強力なリリーバーたちが支えていた。
しかし今シーズンは、リリーフ陣のリーダー的な存在だった三上朋也が右肘の故障で早々に離脱、昨年70試合に登板した鉄腕左腕の砂田毅樹も不調でファーム暮らし続いた。極めつけは、セットアッパーのパットンが降板後にベンチの冷蔵庫を殴打して骨折し、戦線離脱となる。
今シーズンのQS率は昨シーズンよりは改善したものの、依然40%には届かない苦しい状況。しかし、前述の3投手がいない期間、復活した武藤祐太、覚醒した国吉佑樹、フル回転の助っ人左腕エスコバーと共に救援陣を引っ張ってきたのが、昨年リリーフとして60試合に登板し、見事に“復肩”を果たした三嶋一輝だ。
自己最多登板数を更新中
今年も10試合を切った秋口、自己最多登板数を更新している状況(※9月16日終了時点で67登板)で、9月に入ってからは4連投をこなしたこともある。もはや連投は当たり前のようになっている状況に、「投げすぎ」の声もあがっているが、三嶋本人は「正直話しますが」と前置きしたうえで次のように続けた。
「投げられることは幸せなんです」
そのポジティブな思考の根底には、自らの苦しい経験がある。
「二軍でくすぶっていたときもありましたし、投げたくても投げられないことも経験した。連投だろうがどんな場面だろうが、声がかかれば『よっしゃ! 出番だ! 今日もいくぞ!』ってなる」。
そしてもうひとつ、チーム内の最多登板投手(※9月16日終了時点で70登板)でもある年下のエスコバーの存在も大きい。エスコバーの「今日も“チャンス”が来るだろうね」の言葉が「すごく好きで、いいなと思えた」という。チャンスは日本語で“機会”。文字通り、登板機会を“与えてもらえている”との考え方も、三嶋の心をより前向きにした。
投げられる喜びを胸に
現在のベイスターズには、守護神の山崎康晃に繋ぐまでの方程式は存在せず、フレキシブルな起用で凌いでいる印象だ。リリーフ陣にとっては難しい状況だが、三嶋は「どこで出るのか分からなければ、準備を広い範囲で行うだけ」と語り、来るべき出番に備えている。
同じ境遇である「中継ぎの皆で戦って、繋いで勝てたときは最高」と笑顔を見せ、「登板機会の多いピッチャーだからこその、責任ある投球を」という発言の中には、リーダー格としての自覚も垣間見えた。
気になる疲労についても「意外としんどくない」とキッパリ。それには「頭がしんどいと思ったらダメ。弱気な姿勢は見せたくない」とのマインドによるところが大きいようだ。「試合数を投げなくても怪我はする。壊れたら体力がないだけでしょう」と、登板過多に見える現状も意に介さない。
「プロとして、こういう姿勢の選手でありたい」と、決して逃げない思考は、ピッチングスタイルと同じで強気一辺倒だ。「いい投球が出来なかったときは疲れますね。アタマを切り替える作業が必要ですから。逆に疲れがとれるのは、しっかり抑えてマウンドを降りてくるとき」と、“気持ちで投げ切る”三嶋らしい言葉が溢れる。
チームはこの先、ポストシーズンに進出することが濃厚となっている。豪腕リリーバーは、投げられる幸せを感じながら、どんな場面でも強気に腕を振り続ける覚悟だ。
取材・文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)