白球つれづれ2019~第37回・二刀流の真価を来季に
米大リーグ・エンゼルスに所属する大谷翔平のメジャー2年目が幕を閉じた。
現地時間9月13日(日本時間同14日)にロサンゼルス市内の病院で「左膝分裂膝蓋骨」の手術を受けたことで全治8~12週間の見込み、チームのシーズン終了まで15試合を残しての戦列離脱だった。
この左膝の痛み、実は日本ハム時代からのものだという。恩師でもある栗山英樹によれば、「それはずっと気にしていた。去年帰って来た時も、その話はしていたし、いつ(手術を)やるかの問題だった」と明かしている。今季のスプリングトレーニング中の2月にも違和感を訴えたが、大事に至らなかったため見切り発車となったようだ。
右肘のトミージョン手術のため打者専念となった今季。長いリハビリを経て5月に復帰すると、エ軍監督のB・オースマスが「ジェットコースターのようだった」という山あり谷ありのシーズンとなった。
6月には日本人史上初のサイクル安打を記録すると、7月には自己最多となる月間9本塁打の大暴れ。しかし8月に入ると打棒が湿りだし、73打席本塁打なしは自己ワースト。この間には僚友、T・スカッグス投手の急死など、ショッキングな出来事も起こった。
エース候補だったスカッグスに大谷までを欠いた投手陣は弱体をさらし、優勝戦線からは遠ざかることに。プレーオフ進出の可能性が消滅した時点で、チームは来季に目を向け、大谷の早期手術に動き出した。
増していく負担と期待値
打率.286、18本塁打、62打点、12盗塁。これが大谷の今季における打撃成績だ。昨年のメジャー1年目と比較すると、数字は驚くほど似通っている。打率と打点はほぼ同じで本塁打は4本減ながら、盗塁は2個増。及第点と言えなくもないが、昨年は投手としての活躍(4勝2敗)があったことを考えれば、やや消化不良の感も否めない。事実、シーズン前には打者専念なら30ホーマーも期待されていたのだから微妙な数字だろう。
投げて、打って、走る。大谷は、野球選手にとって最高な資質を持っている。よく二刀流と表現されるが、厳密には「三刀流」である。しかし、どの部門でも秀でた特性は時として危うさも生む。大谷のプロ入り後の主な故障を調べてみるとそれは歴然だ。
【1】2016年4月:右手中指のマメを悪化させ復帰まで2カ月
【2】2016年10月:日本シリーズで右足首を痛め、翌年に三角骨除去手術
【3】2017年4月:走塁中に左大腿裏を肉離れ、投手復帰まで3カ月
【4】2018年4月:ヤンキース戦で左足首捻挫、2試合欠場
【5】2018年6月:右肘靱帯損傷で故障者リスト入り、一時復帰も10月手術
投手としてマメを悪化させ、肘の靱帯も痛める。打者として、走者として足首や大腿部に故障が発生する。練習量も人の2倍必要だが、体の負担もそれにつれて倍増する。それをプロの世界で、さらに世界最高峰のメジャーで実践しようとすれば体も悲鳴をあげる。だからこそ、それほど過酷な条件に挑戦している大谷の存在は、目の肥えたメジャーのファンにも眩しい。
今回の左膝の手術は成功して、順調なら10週間ほどでブルペンの投球練習を再開。打撃練習も12月か来年1月には打ち始めると言う。メジャーでもベーブルース以来100年ぶりの本格的二刀流選手として大きな話題と関心を呼んだ大谷のエンゼルス入団。しかし、この2年間は相次ぐ故障もあって、まだフルシーズンを戦っていない。
現地では「来季こそ、二刀流の真価を期待する」と応援の声がある反面、厳しいジャーナリストは「彼はダメージ品だった」と故障の多さを危惧する。試練も期待も人の2倍なのだから、達成した時の喜びも大きい。160キロの快速球と「ビッグフライ・オオタニサーン!」の再現へ。正念場を迎える大谷のメジャー3年目は、すでに始まっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)