あらゆる場面で
野球において「ユーティリティプレーヤー」とは、複数のポジションを守ることができ、マルチな役割をこなせる選手のことを指す。今シーズンの左腕・石田健大の役割は、さしずめ「ユーティリティピッチャー」と評しても差支えないだろう。
2年連続で開幕投手を任されたこともある5年目の左腕だが、今シーズンの役割は多岐に渡り、その難しい役割を高いレベルでクリアする姿は、まさに「獅子奮迅」の働きと形容できる。
怪我のため開幕から約1カ月遅れで一軍に合流した際は、中継ぎとして活躍。23試合に登板して防御率1.82と安定したピッチングを披露し、砂田毅樹の不調などで、手薄になっていた貴重な左腕リリーバーとしてブルペン陣を支えた。
すると、オールスター前に抹消された後、調整期間を経て7月20日に待望の先発としてまっさらなマウンドに上がると、5回1失点で勝利投手に。その後、先発として6度登板し、そのうち5試合で5イニング以上を投げきって3勝をマーク。防御率も2.76と、先発として立派な成績を残した。
しかし、ブルペン陣の一角として奮闘していた2年目の左腕・櫻井周斗が8月9日に抹消されてからは、リリーフ左腕がエスコバーのみというチーム事情から、8月29日には再び中継ぎへ配置転換。優勝争いの真っ只中、リード、ビハインドといった状況に関わらず、回跨ぎも度々こなし、9月16日にはオープナーまで任された。
ここまで38試合に登坂し、防御率2.19と安定したピッチングで、苦しい台所事情の下支えを立派に果たしている。
原点回帰で復活
信頼を取り戻した石田は、復調したキッカケを「腕を振って投げることを思い出した」ことと振り返る。
ストレートと、キレのあるスライダーとチェンジアップのコンビネーションで、三振を奪うスタイルは“剛球左腕”のイメージで、さらに今シーズンはストレートが150キロ超と年々スピードは増している。しかし当人は「球速を求めてはいないので、特に何かを変えたことはない」と、さらりと言ってのけ、「腕を振ることを意識した結果、スピードも上がり、ゾーンで勝負ができている。その結果として、三振もとれている」と自己分析。基本に立ち返ることと、あえて変えずに積み重ねることで、本来の姿プラスアルファの“輝き”を手に入れた。
また、“便利屋”的な起用に関しては、「色々な面で難しいですよ。気持ちの面とか」と苦悩もあることを率直に明かしてくれたが、「誰かがやらなければいけない。チームに足りない部分を補うことを求められている」「自分にもプラスになっている」と、いたって前向きな姿勢で取り組んでいる。
負けられない戦いの中、「自分の任せられたポジションで“1勝”に貢献できたら」と語り、「今は中継ぎとして、先のことは考えない。“今”を戦い抜く」と、最近ラミレス監督が多用する「Day by day」の精神が、石田にも宿っている。この先のクライマックスシリーズ、そして日本シリーズといった短期決戦には、の精神が有用となるはずだ。
ファンへの感謝
「ハマスタでの勝率をみても、ファンに助けられて勝っている。ファンの力に助けられ、チームが動いている」と、毎試合スタンドを青く染め上げるファンに「ホントにありがたい」と感謝する。これからも背番号14は、ファンの力を借りて、チームの求められる場面で一心不乱に腕を振っていく。
取材・文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)